中東を読み解く

2020年4月6日

»著者プロフィール

 コロナ禍が世界中に拡大する中、米国とイランが水面下で再び緊張を高めている。トランプ政権の強硬派はイラン支援の民兵から米軍などが攻撃を受けた場合、イランを直接的に報復攻撃し、コロナ危機で苦境にあるイランをとことん追い詰めるよう主張。対してイランは制裁で医療用品を購入できないと訴え、制裁の緩和を狙っている。対立はどこまでエスカレートするのか。

イラン最大のショッピングモールがコロナウイルス感染者の受け入れ施設にされた(REUTERS/AFLO)

トランプ大統領の恫喝

 トランプ大統領は4月1日、イランがイラクの民兵組織を使って駐留米軍などを攻撃すれば、直接的にイランに報復攻撃することを示唆した。大統領はもしそうした攻撃があれば、「イランは極めて高い代償を払うことになる。これは彼らに対するメッセージだ」と強く恫喝した。

 米紙などによると、大統領が恫喝したのはイラクのイラン支援民兵「カタイブ・ヒズボラ」(神の党旅団)が米軍に大規模攻撃を加えることを計画している、との米情報機関の極秘情報があったからだ。同組織は3月、米軍によってイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官と組織指導者が暗殺されたことの仕返しとして、バグダッド北方の基地へロケット弾攻撃し、米兵2人、有志連合軍の英兵1人を殺害した。

 米国はこの攻撃に対し、「カタイブ・ヒズボラ」の武器庫などを空爆、戦闘員ら数十人を殺害した。駐留米軍は新たな攻撃に備えるため、部隊をより安全な基地に移動させ、一部をクウエートなど隣国に配置換えした。しかし、再び切迫した攻撃計画の情報があったため、トランプ大統領の恫喝となったようだ。

 しかし、トランプ政権内部では、報復攻撃について強硬派と慎重派が大激論を展開し、真っ二つに割れている。ニューヨーク・タイムズによると、ホワイトハウスでは3月12日、「カタイブ・ヒズボラ」の攻撃にどう応じるかをめぐって安全保障チームがトランプ大統領の前で鋭く対立した。

 ポンペオ国務長官、オブライエン大統領補佐官(国家安全保障担当)、グレネル国家情報長官代理らが、大胆な軍事行動が米軍への攻撃をやめさせ、イランを譲歩させて交渉のテーブルに就かせることになると主張。イラン海軍艦船に対する攻撃などイランへの直接攻撃を大統領に進言した。ポンペオ国務長官はイラン指導部がコロナ禍で対応に忙殺されている今こそ、強硬的な措置でイランを追い込む時だと見ているようだ。

 これに対し、エスパー国防長官、ミリー統合参謀本部議長らはイランが「カタイブ・ヒズボラ」に米軍攻撃を命じた「明確な証拠がない」ことを指摘し、イランへの直接攻撃がイランの反発を招き、米国をより広範な戦争に引きずり込む恐れがあるとして反対した。

 エスパー国防長官らはソレイマニ司令官殺害に対するイランの報復ミサイル攻撃で、約100人の米軍兵士が脳に障害を受けるなど負傷したことから、イランとの軍事衝突には慎重になっている。トランプ大統領は最終的に、イランへの直接報復をやめ、「カタイブ・ヒズボラ」の武器庫などへの攻撃にとどめた。

民兵壊滅作戦に米司令官が反対

 この会議の後、国防総省は大統領に軍事行動の選択肢を提出するため、「カタイブ・ヒズボラ」の壊滅作戦計画を策定するようイラク駐留軍のロバート・ホワイト司令官に命じた。大統領は壊滅作戦の開始は承認しなかったものの、作戦計画を策定することを許可した。

 しかし、同司令官は命令を受けてすぐに異議を唱える書簡を国防長官に送った。反対の理由について、壊滅作戦が流血の戦闘につながり、イランとの戦争のリスクを高めること、数千人の兵力増員が不可欠であること、イラク軍の訓練支援という駐留の任務を変更する必要があることなどを指摘した。

 イラク駐留米軍は現在、約5000人。作戦開始のためには数万人規模の部隊が必要になると見られており、現在中東全域に展開する約7万人の米軍の一部をイラクに再配置する可能性が強い。しかし、ずるずると長期の戦闘に巻き込まれてしまう恐れがあり、そうなれば、「紛争地からの撤退」というトランプ大統領の公約は不可能になる。

 またイラクとの関係も悪化するのは必定。現在の駐留の大義名分は過激派組織「イスラム国」(IS)と戦うためのイラク軍の訓練や助言だ。しかし、本格的に「カタイブ・ヒズボラ」の壊滅作戦に入れば、他の民兵組織が合流する懸念もあり、イラク戦争時の過激派との激戦の再来が現実化するかもしれない。

 ホワイト司令官が異を唱えたのは当然だったと言えるだろう。イランとの戦争を懸念する民主党のペロシ下院議長ら有力連邦議員は3月末、大統領に書簡を送り、イラクなどで軍事行動を起こす際には事前に議会と協議するよう要求した。

関連記事

新着記事

»もっと見る