中東を読み解く

2020年3月4日

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 1年間で3回目となるイスラエル総選挙(120議席)は3月2日に投開票され、ネタニヤフ首相の与党「リクード」が野党連合の「青と白」を抑え、第1党を確保した。過半数に僅かに届かず、焦点は連立協議に移る。後ろ盾の米国はネタニヤフ政権が発足すれば、イスラエル・アラブ首脳会議を開催し、イスラエルとサウジアラビアの歴史的な和平を調停する、との見方が強まっている。

勝利を喜ぶネタニヤフ氏(AP/AFLO)

刑事被告人の劣勢跳ね返す

 今回の選挙は昨年の4月、9月に続いて3回目だ。過去2回は「リクード」「青と白」とも、単独過半数の61議席には及ばず、連立政権工作を余儀なくされたが、いずれも失敗した。今回もまた、事前の予想通り両勢力とも過半数を獲得できない。連立工作が不調に終われば、4回目の選挙に追い込まれるというイスラエル建国以来初の異常事態だ。

 3日夜の開票結果(90%)によると、「リクード」は終盤に巻き返し、36議席を獲得。右派・宗教政党を糾合したネタニヤフ支持勢力は59議席の見通しで、過半数に2議席足りない。「青と白」は32議席を獲得したが、連立の中東・左派勢力としては過半数に遠く及ばない。

 第三党は15議席のアラブ系政党、大連立を提案する極右政党が7議席と続いている。リブリン大統領はネタニヤフ氏に組閣を要請する見通し。首相は「大勝利だ」と宣言、青と白の指導者ガンツ氏は「予想した結果ではなかった」と失望を表明した。

 ネタニヤフ首相は昨年11月に収賄罪などで起訴され、3月17日に初公判が開かれる予定となっており、史上初めて刑事被告人の首相として選挙に臨み、逆風にさらされてきた。しかし、トランプ大統領が1月末、イスラエル寄りの中東和平案を発表、これを外交的な成果としてアピールするとともに、大統領との親密な関係を売り込んだ。

 トランプ大統領は係争の聖地エルサレムをイスラエルの永遠の首都と認定、米大使館を商都テルアビブからエルサレムに移転、また中東和平案では、パレスチナ自治区へのユダヤ人入植地に対し、イスラエルの主権を認めるなど和平強硬派のネタニヤフ首相を援護射撃した。

 また新型コロナウイルスへの厳しい対応も有権者に評価されたようだ。イスラエルでは2日現在、10人の感染者が確認されたが、ネタニヤフ政権は感染者と接触した可能性のある国民に2週間の隔離を要求し、違反した場合禁固刑を科すと警告した。日本など8カ国からの外国人入国も禁じた。

 ネタニヤフ首相はこうしたことで刑事被告人の劣勢を跳ね返し、終盤に逆転した。しかし「刑事被告人の組閣が憲法上認められるのか」については大きな疑義が出ており、今後最高裁に判断が求められるのは確実だ。

 ネタニヤフ首相は合法的なあらゆる手練手管を使って連立工作を進める意向。政権樹立に成功した場合、まずはユダヤ人入植地の併合に踏み切り、トランプ政権の和平案を履行していくものと見られる。しかし、パレスチナ側は拒否の姿勢を変えておらず、和平の見通しは絶望的だ。

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