アフガニスタンで2月22日午前零時、米国と反政府武装勢力タリバンによる和平合意に向け、7日間の停戦が始まった。タリバンがこの期間、政府軍や米駐留軍に対する攻撃を行わなければ、両者は29日に和平合意に署名、米部隊の撤退が開始される見通し。「紛争地からの軍撤退」。この成果を何がなんでも再選に利用したいトランプ大統領の思惑が透けて見える。
“和平つぶし”の攻撃リスクも
ポンペオ国務長官らによると、停戦はカタールのドーハで続けられてきた米国とタリバンによる交渉でまとまった。7日間の停戦は、正式には「暴力削減措置」と呼ばれ、タリバンは政府軍や米軍に対する攻撃を中止、米軍も国際テロ組織アルカイダや過激派組織「イスラム国」(IS)に対する掃討作戦以外の軍事行動を停止する。
この期間内に停戦が守られたことが確認されれば、米国とタリバンは和平合意を結ぶ。米紙や地元メディアなどによると、和平合意はタリバンが①アフガニスタン政府との和平交渉を開始②アルカイダなどのテロリストを保護しない―ことを確約し、これと引き換えに米駐留軍が順次撤退するというのが骨子。
米駐留軍の規模は現在、約1万3000人だが、合意が成立すれば、第一段階として約5000人を撤退させ、8500人程度にまで削減、その後、順次撤退を進める。しかし、米側が対テロ作戦継続のため、最終的に小部隊を残留させたいと主張しているのに対し、タリバン側はすべての外国駐留軍の撤退を求めており、意見の食い違いは解消されていない可能性がある。
当面の焦点は7日間の停戦が守られるかどうかだが、タリバンの最強硬派指導者シラジュディン・ハッカニ氏はこのほど米紙に寄稿し、和平合意に前向きな姿勢を示しており、一部には楽観的な見方も出ている。しかし、和平によって自らの権益が損なわれるとする勢力は政府軍内部にさえおり、“和平つぶし”の攻撃が発生する危険性も否定できない。
難航が必至なのはタリバンとアフガン政府との和平交渉だ。第一に、政府側の和平交渉団が結成されるかどうかも危うい状態だ。というのも、本来はタリバンとの交渉に一枚岩で当たらなければならない政府側が権力闘争で真っ二つに割れているからだ。ガニ大統領と政権ナンバーツーの実力者、アブドラ行政長官の対立である。
大統領選で2人が勝利宣言
9月に実施された大統領選挙の結果は5カ月後の先週にやっと発表され、ガニ氏の再選が決まった。これに対し、アブドラ氏は選挙に不正があったとして、自らも勝利宣言。独自の政府を樹立する意向を示し、政治の対立と混迷ぶりが浮き彫りになった。アブドラ氏には軍閥として名高いドスタム副大統領が支援している。
タリバンとの和平交渉に臨むためには、政府の和平交渉団が結成されなければならないが、両者が対立していては事実上不可能だ。タリバンと米国の間で和平合意ができたとしても、肝心な政府に交渉能力がなければ、アフガニスタンの内戦に終止符は打てない。
しかも、タリバンとの和平を結んだ米国がこの「アフガニスタン人同士の話し合い」を調停するかどうかは不明。最悪の場合、米軍が撤退していく一方で、アフガン和平は進まず、内戦がさらに激化するということにもなりかねない。アナリストの1人は「それこそがタリバンの狙い」と指摘する。
タリバンは現在、アフガニスタンの国土の約半分を支配している。5年前の支配地域が30%程度だったことを考えると、その勢力が拡大したことが分かる。タリバン側が、政府軍をテコ入れしている米軍がいなくなれば、軍事攻勢によって勢力範囲をさらに拡大し、最終的には政権を奪取できる、と考えても不思議ではない。
「タリバンとしては、政府軍の後ろ盾である米軍をとにかく追い出してしまえば、何とかなるということだ。だからトランプ政権との和平合意に応じたのだ」(アナリスト)。こうしたタリバンの思惑は米部隊の撤退を急ぐトランプ大統領の思惑とも一致する。