中東を読み解く

2020年3月2日

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 トルコ軍は3月1日、シリアのアサド政権軍の戦闘機2機を北西部イドリブ県上空で撃墜、対して政権軍もトルコの無人機3機を撃墜するなど戦争状態に突入した。トルコは一方で、シリア難民をギリシャ国境に送り込んで難民危機を“演出”、欧州連合(EU)に圧力を掛けた。シリア情勢は政治的な駆け引きをはらみながら、緊迫の度を深めている。

ギリシャ国境に向かうシリア難民の家族(REUTERS/AFLO)

「春の盾」作戦

 トルコの攻勢は直接的には、2月27日にアサド政権軍による空爆で、トルコ軍兵士36人が死亡したことに対する報復だ。だが、エルドアン大統領は元々、政権軍が2月末までにイドリブ県から撤退しなければ、軍事力の行使も辞さないと最後通告してきた。トルコは今回の攻勢を「春の盾」作戦と命名した。

 トルコ国防相によると、トルコ軍はスホイ24戦闘機2機を撃墜した他、この一両日で将軍3人を含む政権軍の2200人を殺害。戦車103両、6つの防空システムなどを破壊した、という。シリアの空軍基地にも空爆を実行した。西側アナリストは、この数字が誇張されたものだろうとしながらも、政権軍に数百人規模の戦死者が出ていると指摘した。

 現地からの報道などによると、政権軍とともに戦っているレバノンの武装組織ヒズボラやイラン革命防衛隊などにも死傷者が出ているもよう。イランの報道機関はイラン人21人が死亡したと伝えている。シリア国営通信は「トルコの敵対行為はテロリスト(反政府勢力)を救うことにはならない」と非難した。

 しかし、政権軍の後ろ盾であり、シリアの制空権を握るロシアは事態を静観しており、ここ数日、イドリブ上空に軍用機を飛ばしていない。このロシアの姿勢に対し、シリア側から不満の声が上がっているという。ロシアが慎重な構えなのは、政権軍に加担すればトルコとの関係が悪化すること、すでにシリアでの「戦略的な目標」を達成している点などを指摘できるだろう。

 ロシアのプーチン大統領とエルドアン大統領は同じ独裁的な手政治手法を持つことなどから認め合っているとされ、3月5日か6日にモスクワでシリア情勢について会談する予定だ。エルドアン大統領はプーチン氏からシリアでの軍事作戦の了承を取り付け、トルコの邪魔をしないよう求める意向とされる。

 またプーチン氏はアサド政権に多大な軍事支援を行ってきたが、必ずしもアサド大統領にはシンパシーを抱いていない。シリアへの軍事介入により「ロシアの軍事的プレゼンスを確保し、逃げ腰の米国に代わる存在感を中東世界に誇示する」という戦略的な目標は達成済みで、トルコとシリアとの紛争に直接的に巻き込まれたくないというのが本音だ。

 シリアのごたごたに巻き込まれたくないというのはトランプ米大統領の方が強い。トランプ大統領はシリアの油田地帯を過激派組織「イスラム国」(IS)から防衛するという名目で、シリア北東部に約500人の部隊を維持しているが、シリアの平和には関心が薄い。エルドアン大統領とは先月末に電話会談し、トルコ支援を表明したが、介入することには一切言及しなかった。

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