2022年8月8日(月)

中東を読み解く

2020年3月2日

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バスで難民をギリシャ国境に送り込む

 エルドアン大統領はアサド政権に対する軍事攻勢を仕掛ける一方で、難民を利用してEUへの圧力を一段と強めている。大統領は先月末、トルコが「これ以上の難民の世話する義務はない」として、欧州に向かう国境を開放した。トルコ国内には現在、シリア難民370万人がいる上、イドリブ県の戦火から避難してきた難民約100万人がトルコ国境に押し寄せている。

 トルコとEUは、欧州で難民危機が起きた後の2016年、難民返還協定を結び、難民をトルコに戻す枠組みを作り、その結果、欧州への難民流入が著しく減少した。しかし、エルドアン大統領はEUが協定の見返りの経済支援などを十分果たしていないと不満を強めてきた。

 今回、国境を開放した直接的な理由は、EUがシリアの紛争で、北大西洋条約機構(NATO)の一員であるトルコを支援していないことへの怒りだ。エルドアン大統領はNATOがイドリブ県上空で飛行禁止空域を設定するよう要求しているが、ロシアとの衝突を懸念するNATOは無視してきた。これにエルドアン氏は「NATOが知らん振りをするなら、思い知らせてやる」(ベイルート筋)と難民危機の再来を“演出”したわけだ。

 中東専門誌などによると、トルコはイスタンブールで無料バスを仕立て、難民らをギリシャ国境にまで送り込んでいるという。トルコ北西部のパザルクレ国境検問所には現在、数万人のシリア難民らが押し寄せている。トルコ内相は難民7万6000人が国境に向かっているとツイートした。トルコ沿岸からエーゲ海を渡ってギリシャに入った難民も500人規模に達した。

 ギリシャは軍隊を動員して、国境を突破しようとする難民に催涙ガスを発射するなど阻止行動に出てたため、現地は騒乱状態だ。ギリシャは「トルコは難民の密輸業者に成り下がった」と非難した。難民の流入に備え、ハンガリーのオルバン首相が国境の管理強化を打ち出すなど欧州各国も対応に乗り出す構えだ。

 こうした中、EU大統領がギリシャ国境の視察に訪れ、EU緊急外相会議も数日中に開催される予定になった。EU側と、したたかなエルドアン大統領との間で、どのような政治的駆け引きが交わされるのか、見ものである。

  
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