シリアのアサド政権軍が反体制派の最後の拠点、北西部イドリブ県への攻撃を続け、同県に進駐するトルコ軍と砲撃戦を展開、全面衝突の緊張が高まっている。政権軍や後押しするロシア軍の空爆を恐れた住民約60万人がトルコとの国境に殺到し、深刻な人道危機も起こっており、国際的な支援が急務だ。
エルドアンの“最後通告”
全土の奪還作戦を進めるアサド政権は昨年12月からイドリブ県への攻勢を開始、先月には同県第2の都市マアラトヌマンを占領、今月8日には戦略的な要衝サラケブを制圧した。これにより、政権は北部の大都市アレッポと首都ダマスカスを結ぶ主要道路を確保、全土掌握に大きく近づくことになった。
アサド政権軍には、ロシアが空爆支援。イランが送り込んだレバノンの武装組織ヒズボラやイラク、アフガニスタンのシーア派民兵軍団、ロシアの傭兵部隊が地上戦を支援している。政権軍の相手はトルコが後押しする「シリア国民軍」などの反体制派と、国際テロ組織アルカイダ系の過激派「シリア解放機構」(旧ヌスラ戦線)だ。「シリア解放機構」には依然、約3万人の戦闘員がいると見られている。
トルコはこれまでに、シリアのクルド人勢力「人民防衛部隊」(YPG)を掃討するためとして、「ユーフラテスの盾」(2016年)、「オリーブの枝」(2018年)、「春の平和」(2019年)という3つの越境作戦でシリアに侵攻。「春の平和」作戦では、国境地帯のシリア側に「安全保障地帯」を設置した。
トルコは一方で、ロシアとイドリブ県の停戦で合意、同県とその周辺に12の監視拠点を設け、アサド政権軍と反体制派の兵力引き離しを図った。シリア領内に影響力を確保するとともに、イドリブ県の戦闘激化によってさらなる難民の発生を回避したいとの思惑からだ。トルコはすでにシリア難民約350万人を抱えており、これ以上の難民の増加には耐えられないとの立場だ。
しかし、アサド政権軍はトルコの再三の警告を無視して、イドリブ県に対する攻撃を激化。トルコ軍は2月3日、アサド政権軍の攻撃でトルコ兵8人が死亡したことに反撃、政権軍側の数十人を殺害した。だが、アサド政権軍は進撃を続行、これにトルコがイドリブ県に増援部隊を派遣して対抗している。
トルコのエルドアン大統領は「政権軍が今月末までに撤退するよう」要求、応じなければ、力で撤退させると“最後通告”し、両軍の緊張が拡大している。国連によると、政権軍とロシア軍による空爆により、過去2カ月間で住民約300人が犠牲になった。同県の住民300万人のうち、その半数が難民化、60万人が戦火を逃れて北部のトルコ国境方面に避難、厳寒の中、路上生活を余儀なくされている。60万人のうちの半分は子供だという。