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2020年1月6日

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滝田洋一 (たきた・よういち)

日本経済新聞社編集委員・テレビ東京『ワールドビジネスサテライト』解説キャスター

1981年慶應義塾大学大学院修了。金融部、チューリヒ支局、米州総局編集委員などを経て、2011年より現職。08年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。近著に『世界経済 チキンゲームの罠』(日経プレミアシリーズ)。

 2020年代の幕開けとなる正月、メディアの新年企画を吹き飛ばす事件が相次いだ。カルロス・ゴーン被告のレバノン逃亡劇はそのひとつ。そんなニュースを吹き飛ばしたのが、米軍によるイラン革命防衛隊司令官の殺害である。

4日、米軍によるイランへの攻撃に対し抗議する人々(カナダ・トロント。PHOTO BY GETTYIMAGES)

 新年早々に最高値を更新した米国の株式市場は、さっそく視界不良の状況に突入した。ひょっとすると米国とイランは戦闘に突入するかもしれない。アジアに目を転じれば、北朝鮮の非核化をめぐる米朝のつばぜり合いが厳しさを増している。台湾総統選を機に、中国は台湾への圧力を一段と高めかねない。

 ニューヨーク・ダウの3万ドル乗せと、ナスダックの1万突破はどちらが早いか。いい湯加減を楽しんできたマーケットと剣呑(けんのん)な国際政治は、平仄(ひょうそく)が合わない。まず株式市場の方から点検しよう。19年末にかけて米国をはじめ世界の株式市場を強気に転換させたのは、貿易協議での米中の手打ちである。

 1月15日、ホワイトハウスで自ら署名する。中国からはハイレベルの代表団がやって来る。19年12月31日、トランプ米大統領はこう大見えを切った。ホワイトハウスという米政治の晴れ舞台に、中国側を呼び寄せた。いかにもトランプ劇場らしく、舞台設定は上々である。

 株式市場はある意味で単純である。トランプ大統領が習近平国家主席をねじ伏せたとみて、大はしゃぎとなった。トランプ氏が中国に本格的な貿易戦争を仕掛けた18年春以降の株価をみても、ニューヨーク・ダウは上海総合指数を大幅に上回るパフォーマンス(成績)を上げている。

 中国が01年に世界貿易機関(WTO)に加盟して以降、中国は米国との取引でいいとこ取りを楽しんできた。もはやそんな振る舞いは許さないぞ。そう決意したトランプ政権が繰り出した制裁関税。自由貿易の建前を掲げるメディアの評判は悪かったが、中国側の譲歩を引き出したのは確かである。

 米国経済への打撃が小さかった代わりに、中国側は輸出の落ち込みという大きなダメージをこうむったからだ。実は米企業の経営者たちも、中国による知的財産権の侵害や国家主導の介入にいら立ちを覚えていた。トランプ政権による対中巻き返しの成功を、マーケットが歓迎したという面もある。

 トランプ大統領は今回の貿易合意を第一段階と位置づけ、第二段階の米中交渉に乗り出すため北京を訪れる意向も示している。とはいえ、中国当局による産業補助などが大きなテーマとなる第二段階は、経済運営の本丸ともなる分野である。中国側がおいそれと譲るとは考えられない。

 トランプ大統領に対する米下院の弾劾決議を機に急速にしぼむ弾劾機運。新NAFTA(北米自由貿易協定)であるUSMCAへの米議会の承認取り付け。英国の欧州連合(EU)離脱を争点に戦われた英総選挙での保守党の圧勝。消費税増税後の景気冷え込みに対処した日本の補正予算編成。

 株式市場にとってのこれらの好材料は、19年12月中に出尽くしている。だから米中貿易合意を市場関係者はことさら寿(ことほ)いでいた。そんななか、世界中で地政学リスクが顕在化しだしているのだ。警戒したいのは、有事に資金の逃避先となる金が6年ぶりの高値に迫っていることである。

 年明け早々の1月3日、米・イランの緊張激化を引き金に、ロンドン市場で金相場が急騰し、1トロイオンス1550ドルを突破した。プラチナも1トロイオンス1000ドルに達した。金相場は金融不安の沈静化を映し15年末には1100ドルをも下回っていたのだが、今や新たな有事に身構えている。

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