2023年12月1日(金)

補講 北朝鮮入門

2020年1月6日

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礒﨑敦仁 (いそざき・あつひと)

慶應義塾大学教授

1975年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部中退。在学中、上海師範大学で中国語を学ぶ。慶應義塾大学大学院修士課程修了後、ソウル大学大学院博士課程に留学。在中国日本国大使館専門調査員、外務省専門分析員、警察大学校専門講師、東京大学非常勤講師、ジョージワシントン大学客員研究員、ウッドロウ・ウィルソンセンター客員研究員を歴任。慶應義塾大学専任講師を経て、現職。共編に『北朝鮮と人間の安全保障』(慶應義塾大学出版会、2009年)など。

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澤田克己 (さわだ・かつみ)

毎日新聞記者、元ソウル支局長

1967年埼玉県生まれ。慶応義塾大法学部卒、91年毎日新聞入社。99~04年ソウル、05~09年ジュネーブに勤務し、11~15年ソウル支局。15~18年論説委員(朝鮮半島担当)。18年4月から外信部長。著書に『「脱日」する韓国』(06年、ユビキタスタジオ)、『韓国「反日」の真相』(15年、文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)、『韓国新大統領 文在寅とは何者か』(17年、祥伝社)、『新版 北朝鮮入門』(17年、東洋経済新報社、礒﨑敦仁慶応義塾大准教授との共著)など。訳書に『天国の国境を越える』(13年、東洋経済新報社)。

 今年の北朝鮮は元日から小さなサプライズを演出した。金正恩国務委員長による恒例の「新年の辞」演説が行われなかったのだ。その代わり、1月1日の朝鮮労働党機関紙『労働新聞』は昨年末に開かれた党中央委員会第7期第5回全員会議(総会)の内容を詳細に報じた。会議の内容に関する記事は、全8ページのうち1〜5面を埋め尽くした。

(AP/アフロ)

 新年の辞は、その年の施政方針演説とも言えるものである。金正恩委員長の祖父である金日成主席は毎年元日の朝にラジオ演説を行った。演説を得意としなかった金正日国防委員長の時代には『労働新聞』など3紙の元日付に「新年共同社説」を掲載していたが、金正恩委員長が2013年から演説形式に戻した。金正日委員長は2011年12月17日に死去しており、実質的には金正恩時代のスタイルは「新年の辞」演説をテレビ中継ということになっていた。

 7年連続で公表されてきた新年の辞を行なわなかったのは、年末まで全員会議を開催したことに伴う臨時の策なのか、現時点ではよくわからない。昨年4月には国会にあたる最高人民会議で初めて「施政演説」を行なったが、この「施政演説」を従来の新年の辞に代えるつもりなのかもしれない。ただ、ここまで例外的な措置は金日成時代から見ても珍しい。しかも党の会議であるにもかかわらず、国家機関の幹部を解任したり任命したりもした。既に9年目に突入した金正恩政権は、依然として予測困難な変化球を投げてくる。

「新年の辞」の代わりとなった中央委員会全員会議

 党中央委員会全員会議は2019年12月28日から31日まで開催された。会議開催は12月3日、「政治局常務委員会決定書」により「12月下旬に」と予告されていた。金正恩政権でこれだけ早く全員会議が予告されるのは初めてのことであり、それだけを見ても力の入れようが分かる。

 しかも、全員会議が4日間にもわたるのは金日成政権期の1990年以来、実に29年ぶりのことであった。

 議題は、①最近の内外情勢下におけるわれわれの当面の闘争方向について、②組織問題(人事)について、③党中央委員会スローガン集を修正補充することについて、④朝鮮労働党創建75周年を盛大に記念することについて——だった。ただ報道のほとんどは第一議題に費やされており、施政方針を意味するこの議題が圧倒的に重要なものだったことがわかる。

 金正恩委員長は、第一議題について7時間に及ぶ「総合的な報告」「歴史的な演説」を行ったとされたが、『労働新聞』や朝鮮中央テレビでは一部が報じられるにとどまった。その意味では、北朝鮮の人々が徹底して学習する「新年の辞」ほどの重みは感じさせない。また、全文がわかる「新年の辞」や「新年共同社説」では、特定の単語や言い回しが何回出てくるかを数えることで北朝鮮にとっての今年の重点政策は何かを読み取ることができた。今回の演説は現時点では要約しか分からないので従来と同じような精度での分析は困難であるが、カッコ内に出現回数を記しつつ、分析を試みてみたい。


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