2024年11月22日(金)

補講 北朝鮮入門

2020年1月6日

新しい道は、具体策の提示されない「正面突破」

 金正恩委員長は昨年の「新年の辞」で、米国の出方によっては「新しい道を模索せざるを得なくなる」と述べた。2月にハノイで行った2回目の米朝首脳会談が不首尾に終わると4月に開かれた最高人民会議で初の「施政演説」を行い、「今年末まで忍耐心を持って米国の勇断を待つ」と表明した。昨年末を一方的な期限と定め、米国の対北朝鮮政策に変化がなければ「新しい道」に進むという揺さぶりだった。

 今回の会議はこの「期限」を受けて開かれたものだ。金正恩委員長は会議招集の目的について、「障害と難関を全面的に深く分析評価して社会主義建設をさらに促進するための決定的対策を講究する趣旨」だと述べ、あらゆる分野で難関を「正面突破」[22回]することを訴えた。「われわれの前進を阻害する全ての難関を正面突破戦で切り抜けていこう!」というスローガンも掲げられた。

 北朝鮮の理解では、これで「新しい道」を提示したことになる。ただし、今般報道では「新しい道」との表現は一切出てきていないし、「正面突破」にしても具体的な説明は行われていない。これから見ていくように、昨年複数回にわたって言及された「新しい道」は新味の無いものにならざるをえなかったからであろう。

対米強硬姿勢を見せつつ、関係破綻は回避

 遠からず「新しい戦略兵器を目撃することになる」、「戦略兵器の開発を中断することなく粘り強く行っていく」と宣言して米国を強く牽制しているが、実際にはトランプ大統領との対話の余地を残しておきたいという考えがうかがえる。そうであるならば、レッドラインを越えるようなことはしないという方針ということになる。

 今般報道では、米国が「強盗さながらの態度をとっているので、朝米間の膠着状態は不可避に長期性を帯びることになっている」として、「米国の対朝鮮敵視政策」によって朝鮮半島情勢はより危険で重大な段階に至っているとの認識が示された。「敵対勢力ども」[8回]という用語も多用され、米国に対しては厳しいトーンで一貫している。

 北朝鮮側が「朝米間の信頼構築のために核実験とICBM発射実験を中止し、核実験場を廃棄する先制的な重大措置をとった」にもかかわらず、「大統領が直接中止を公約した大小の合同軍事演習を数十回も行い、先端戦争装備を南朝鮮に搬入して軍事的に威嚇した」などとして米国の対応を強く批判し、「守ってくれる相手方もいない公約にわれわれがこれ以上一方的に縛られている根拠がなくなった」として、「強力な核抑止力の経常的な動員態勢を常に頼もしく維持する」意思が示された。

 一方、合同軍事演習の中止を公約したという文脈で「大統領」[1回]とは述べているものの、「トランプ」大統領を名指し批判していないこと、一昨年のシンガポールでの共同声明の破棄に直接は触れていないこと、さらには金正恩委員長が「抑止力強化の幅と深度は米国の今後の対朝鮮立場によって調整される」ことに言及した。11月の米大統領選挙を見据えて、米国との交渉という可能性も考慮に入れていると考えられる。

 「今後、米国が時間を延ばせば延ばすほど、朝米関係の清算を躊躇すれば躊躇するほど、予測できず強大になる朝鮮民主主義人民共和国の威力の前に無為無策になるしかなく、ますます窮地に陥るようになる」との発言も、米国との交渉を継続する意思をにじませていると言えよう。時間稼ぎをしているのは、米国のほうだという認識なのである。


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