2024年4月24日(水)

補講 北朝鮮入門

2020年1月6日

米国の制裁には「経済の自力更生」で対抗

 金正恩委員長は「正面突破戦における基本戦線は経済戦線」と定義づけた。その中でも「農業戦線」が重視されている。表現を変えて何度も強調されているのは、「朝米対決は、今日に至って、自力更生と制裁との対決に圧縮され、明白な対決構図となっている」点であり、筆者が最も注目したのはこのくだりであった。

 つまり従前から主張されてきた「新しい道」を意味するであろう「正面突破」とは軍事的な衝突ではなく、制裁に打ち勝つために「自力更生」だという論理を構築したことになる。米国の制裁に「経済の自力更生」で対抗するというのが、金正恩委員長の描く米朝対立の構図ということである。

 現在進行中の国家級建設プロジェクトで「順川リン肥料工場建設」や「漁郎川発電所と端川発電所建設」よりも先に紹介されているのが「元山葛麻海岸観光地区」であることからも、とうてい臨戦態勢にあるとは言い難い。

 今般報道では「経済」[49回]という言葉が、「正面突破」の倍以上も使われている。論調を分析している限りにおいては、経済に総集中するという昨年4月以来の路線に変更は無いと言える。わが国をはじめとする周辺国ではどうしても北朝鮮の核問題・米朝関係に関心が集中してしまうが、同国の全体像を把握するためには、金正恩委員長が経済再建を重視している点を見逃してはならない。1月3日付『労働新聞』は1面全面を使って、「党創建75周年を迎える今年、正面突破戦で革命的大進軍の歩幅を大きく踏みだそう」と題する長文社説を掲載した。新年の辞や新年共同社説と似た構成をとっており、全員会議の内容を再整理しているが、ここでも中心的な話題は経済であり、「米国」には2回しか触れていない。

 会議に関する元日の報道では、米朝関係停滞のため、「制裁」[11回]は当面の間解除されないとの認識も明確にされた。「障害と難関」との闘いは長期戦になるということだ。結局は、「自力更生」[9回]と「自給自足」[2回]で「自立」[4回]的な経済建設を進め、「自力富強」[5回]と「自力繁栄」[4回]を目指す方針が繰り返されたことになる。生産において「潜在力」[4回]を活用し、最大限に「節約」[7回]するという方針も相変わらずである。

 さらに「依拠すべき無尽蔵な戦略資産は、科学技術」だと述べ、「科学技術」[13回]を重視するという持論にも変化は無い。「わが国に大国が保有している絶対兵器が生まれたのも大きな成果であるが、この過程で科学技術のそうそうたる人材部隊が育ったことがこのうえなく嬉しく、これがわが党がより貴重とする成果である」と指摘し、科学研究・教育機関などは自国が「先端科学技術開発国、先進文明開発国」になるよう寄与すべきだとしている。

 全体的に、内閣を中心とした国家の「統一的指導」[4回]と管理の強化が主張されるなど、従来の政策を強調した部分が多く、目新しい政策は見出しづらい。金正恩委員長が好んで使う「世界的趨勢」[1回]については、人材教育のくだりで用いられたほか、「世界が一分一秒を争って新たな技術、新たな製品開発競争を繰り広げている時代の要求に合うように」という表現も見られた。

 理想的なスローガンを連呼するばかりの旧態依然な経済実態を忌み嫌い、実質的な成果を求めるとの観点から「現実」[7回]という用語も散見される。「経済事業は、現実に足をしっかりつけて進めなくてはならない」「現実的要求に合うように計画事業を改善するための明確な方案を模索して、全般的な生産と供給のバランスを合わせて人民経済計画の信頼度を決定的に高める」などといった表現である。

 しかし、今年で最終年度になるはずの国家経済発展5カ年戦略については何ら言及が無かった。昨年の成果が、「三池淵整備第二段階工事」「仲坪野菜温室農場と養苗場」「陽徳温泉文化休養地建設」などに留まったことにも一因があろう。


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