補講 北朝鮮入門

2020年1月6日

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礒﨑敦仁 (いそざき・あつひと)

慶應義塾大学教授

1975年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部中退。在学中、上海師範大学で中国語を学ぶ。慶應義塾大学大学院修士課程修了後、ソウル大学大学院博士課程に留学。在中国日本国大使館専門調査員、外務省専門分析員、警察大学校専門講師、東京大学非常勤講師、ジョージワシントン大学客員研究員、ウッドロウ・ウィルソンセンター客員研究員を歴任。慶應義塾大学専任講師を経て、現職。共編に『北朝鮮と人間の安全保障』(慶應義塾大学出版会、2009年)など。

[執筆記事]
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澤田克己 (さわだ・かつみ)

毎日新聞記者、元ソウル支局長

1967年埼玉県生まれ。慶応義塾大法学部卒、91年毎日新聞入社。99~04年ソウル、05~09年ジュネーブに勤務し、11~15年ソウル支局。15~18年論説委員(朝鮮半島担当)。18年4月から外信部長。著書に『「脱日」する韓国』(06年、ユビキタスタジオ)、『韓国「反日」の真相』(15年、文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)、『韓国新大統領 文在寅とは何者か』(17年、祥伝社)、『新版 北朝鮮入門』(17年、東洋経済新報社、礒﨑敦仁慶応義塾大准教授との共著)など。訳書に『天国の国境を越える』(13年、東洋経済新報社)。

韓国をあてにせず対米「正面突破」か

 以上が「新しい道」の概要である。「新しい戦略兵器」の登場を予告していることから、国防力強化のための兵器実験が断続的に実施されることになろう。また、米国との約束を守る必要がなくなったという部分には留意すべきであるが、昨年2月のハノイでの第2回米朝首脳会談以降、より正確には昨年4月の金正恩委員長による「施政演説」以降、北朝鮮の対米政策には大きな変更が見られないと言える。

 金正恩演説には抽象的な表現が多く、北朝鮮が米国に対して具体的に何を要求しているのかが分かりづらいが、唯一、「大統領」について触れた部分で、トランプ大統領が約束したとされる米韓合同軍事演習の中止について言及していることには要注目である。「新年の辞」に代わる形で、すなわち自国民に周知される形でこのことに言及された以上、米朝の膠着状態を打開するための最低ラインがこの点についての米国側の譲歩となろう。

 なお、今般会議の報道において対外関係は米国にしか触れられておらず、昨年、一昨年の「新年の辞」で重視された南北関係についての言及は皆無である。つまり、韓国の文在寅大統領はアテにならず、米朝関係は「正面突破」しなくてはならないということであろう。

 ただし実際には「自力更生、自給自足」にも限界があり、国連安保理による経済制裁が実質的に緩和されるよう、中国とロシアに理解を求めていくことになろう。それは、「外交戦線をより強化する」ことの一環とも捉えうる。

 当然のことながら、わが国との対話可能性を示唆する表現は全く無い。金正恩委員長は、今は「経済的隘路が多く」、「経済建設に有利な対外的環境が切実に必要なことは事実」と認めながらも、「けっして華麗な変身を望んで今まで生命のように守ってきた尊厳を売ることはできない」と断言している。「正面突破」と「尊厳」[5回]が強調される中で、日本の安倍政権を通じて米国との関係打開を図る道は現時点で想定に入っていないと考えるべきであろう。

<参考資料>「決定書」

 党中央委員会全員会議では、8項目にわたる「決定書」が採択された。参考までに、決定書に含まれた内容を以下に列挙する。

1.国の経済土台を再整備して、可能な生産潜在力を総発動し、経済発展と人民生活に必要な需要を十分に保障する。

2.科学技術を重視し、社会主義制度の体現である教育、保健事業を改善する。

3.生態環境を保護し、自然災害に対応するための国家的な危機管理体系を立てる。

4.強力な政治外交的、軍事的構成で正面突破戦の勝利を担保する。

5.反社会主義、非社会主義との闘争を強化して、道徳紀綱を立てて勤労団体組織で思想教養事業を編成する。

6.革命の参謀部である党を強化して、その領導力を非常に高めていく。

7.革命の指揮成員である活動家達が社会主義建設の前進途上に横たわる難関を切り抜けていくための正面突破戦で党と革命、人民の前に負った自らの責任と義務を尽くすために奮闘する。

8.各級党組織と政治機関は、この決定書を執行するための組織政治事業を編成し、最高人民会議常任委員会、内閣をはじめとする該当機関は、決定書に提示された課業を徹底して執行するための実務的措置を執る。

  
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