中東を読み解く

2020年1月4日

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 イラク当局者が一緒なら中止、いなければ決行―。米ニューヨーク・タイムズなどが伝えるところによると、米軍のイラン革命防衛隊「コッズ」のカセム・ソレイマニ司令官の攻撃作戦は土壇場まで確認作業が必要な危険な賭けだった。戦争の引き金となるかもしれない作戦の綱渡りぶりが明らかになった。

ソレイマニ司令官の殺害を抗議する人々(AP/AFLO)

ゴルフ・リゾートから最終承認

 同紙やワシントン・ポストによると、米政権内でソレイマニ司令官の抹殺が真剣に検討され始めたのは、昨年12月27日、イラク北部キルクーク近くの軍事基地がロケット弾攻撃を受けた後からだ。この攻撃で、米軍事企業の米国人1人が死亡、米兵4人が負傷した。米国はイラクの民兵組織「カタエブ・ヒズボラ」が実行したとして報復爆撃、戦闘員ら25人を殺害した。

 このロケット弾攻撃の背後にはソレイマニ司令官が介在していると確信した政権は司令官の居場所を特定するため監視・追跡を開始。監視・追跡には、秘密の情報員網や電子機器、偵察機などあらゆる手段が動員された。ソレイマニ司令官を抹殺することのメッセージは明確だった。「もし、米国が今行動しなければ、彼らは今後も自由にできると思うだろう」。

 米当局者らはトランプ大統領がイランと戦争をしたくないと繰り返していたことを懸念するとともに、攻撃がイランとイラクから報復を招くリスクがある「大きな賭け」だと認識していた。トランプ大統領は攻撃が行われる前の2日午後5時(バグダッド時間3日未明)、フロリダのゴルフ・リゾート「マール・ア・ラーゴ」で、政治関係の側近らと再選に向けた会議を開いていた。

 大統領は会議の途中で突然、別の会議に呼び出され、数分後に戻ってきた。その際、中座した理由については一切語らなかった。実はこの時、大統領は「外交政策の中で最も重大なものの1つ」を決断した。ソレイマニ司令官の抹殺作戦に最終承認を与えたのだ。

 だが、この作戦には1つの大きな条件が付いていた。作戦を遂行する際に、司令官と一緒にイラク当局者がいれば、中止にするというものだった。作戦は土壇場までどうなるか分からない不確定要素に満ちていたことになる。米軍部隊が駐留するイラクの当局者を巻き込めば、イラク政府が反発し、米軍の駐留継続などに大きな支障が出る恐れを考慮したためだ。

 ソレイマニ司令官がシリアからバグダッド国際空港に到着した際、イラク当局者は迎えに出ておらず、車には同乗していないことがほぼ確認された。賽は投げられた。米特殊作戦軍のドローン「リーパー」(死神)が司令官や「カタエブ・ヒズボラ」の指導者が乗った2台の車列にミサイルを発射した。燃え上がる車の残骸の中に血塗られた手がのぞき、金と赤い石の指輪が見えた。ソレイマニ司令官が愛用していた指輪とされる。

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