トルコのエルドアン大統領は15日、米議会がオスマン帝国末期のアルメニア人大量虐殺を認定する決議を可決したことを非難、トルコ議会も米先住民(ネイティブアメリカン)が過去何世紀かに虐殺されたことを“報復認定”するかもしれないと猛反発した。米議会はトルコのシリア侵攻やロシア製兵器の購入を問題視、対トルコ制裁の動きを強めており、両者の対決は一段と激化してきた。
米軍使用の基地を閉鎖すると警告
エルドアン大統領の過激な発言は米議会で急速に高まっている反トルコの動きに苛立ちを表したものだ。大統領が反発した直接のきっかけは上院外交委員会が12月11日、トルコによるロシアからの防空システムS400の購入とシリア侵攻に対し、制裁法案を可決したことだ。
さらに上院本会議は翌日、トルコの前身オスマン帝国によるアルメニア人の殺害事件について「ジェノサイド(民族大量虐殺)」と認定する決議案を全会一致で可決した。下院も10月下旬、上院に先立って同様の決議案を可決し、教育などを通じて虐殺を否定する言動に反対していくことを決議案に盛り込んだ。
このアルメニア人虐殺に関する決議は最近のトルコの行動に反対するシンボリックなものだ。しかし、トルコにとっては琴線に触れられた格好となり、オスマン帝国の栄光の復活を望むエルドアン大統領には我慢がならなかったようだ。大統領は白人らが西部開拓史の中で、インディアンを虐殺したことに言及して「お前たちが虐殺した歴史を忘れたのか、と切り返したわけだ」(アナリスト)。
エルドアン大統領は米議会の制裁強化の動きに対し、「必要とあれば、インジルリク空軍基地とキュレジック基地を閉鎖する」「彼らが制裁で脅すなら、われわれも報復する」とたたみかけた。トルコ南部にあるインジルリク基地は過激派組織「イスラム国」(IS)に対する米空爆作戦の拠点となり、米戦術核50発が配備されていると伝えられるなど、米国にとっては戦略的な要衝だ。
東部のキュレジック基地は北大西洋条約機構(NATO)のレーダー基地として使用されており、対ロシア戦略上、欠かせない拠点だ。大統領は両基地の閉鎖を示唆することで、米議会の動きをけん制したと見られている。
トランプ大統領はどう出るのか
米・トルコ関係はトルコ軍が10月、米国の同盟者だったクルド人を攻撃するためにシリアに侵攻したことで、トランプ大統領が一時「トルコの経済をめちゃめちゃにする」と恫喝するまでに悪化した。だが、トルコの侵攻は元々、トランプ氏がエルドアン大統領との電話会談の後、シリア駐留部隊の一部をトルコ国境周辺から撤収させたことが誘因になった。
加えて、両大統領はその独裁的な手法が似通っていることなどから互いに認め合い、個人的に親しい関係にある。両者はすぐに修復に動き、トランプ氏が11月、エルドアン大統領をホワイトハウスに招待。会談後、トランプ氏は「私は彼のファンだ」と親密ぶりをアピールし、両国の貿易を1000億ドルまで拡大したいと関係緊密化を強調して見せた。
だが、大統領のこうした親エルドアン姿勢とは逆に、議会には民主、共和両党とも、トルコがNATOの一員でありながらロシアからS400を購入したことなどに強く反発する空気が充満していた。このため、大統領は与党共和党の有力議員5人をホワイトハウスに招き入れ、エルドアン氏と密かに会談させるなど調停を試みたが失敗、逆に議会との溝は深まった。
今月可決された上院外交委員会の制裁法案にはトルコへの軍事援助停止なども盛り込まれているが、上院本会議で可決されれば、下院に送られる。下院でも可決となれば、トランプ大統領の下に送られ、大統領が署名して成立する運びとなる。
しかし、米政府はすでにトルコを次期戦闘機F35の共同開発計画から除外し、同機100機の売却も停止する制裁措置を講じている。エルドアン氏との個人的な関係を見ると、大統領が制裁法案に署名して成立する可能性は低いだろう。むしろ大統領が拒否権を発動して法案をつぶす公算が大きい。こうした安心感があるからこそ、エルドアン氏は過激な発言をしたのかもしれない。