アフガニスタンで4日、同国の農業支援などに長年取り組んできた福岡市の非政府組織(NGO)「ペシャワール会」現地代表、中村哲医師(73)が銃撃されて死亡するテロ事件が起きた。何者の犯行なのか。同国の反政府武装組織タリバンは事件への関与を否定する声明を発表した。一部では、過激派組織「イスラム国」(IS)の分派「ホラサン州」の犯行との見方が出ている。
パキスタンから来た「ホラサン州」
中村さんが襲撃を受けたのは、パキスタンとの国境に近い東部ナンガルハル州の州都ジャララバード。中村さんのボディーガードや運転手ら5人も一緒に殺害された。中村さんは同日朝、車で宿舎を出発、約25キロ離れた灌漑作業の現場に向かう途中に襲われたという。
襲撃した男たちは車で近づき、中村さんの車に乱射し、逃走した。中村さんは右胸に被弾、ジャララバードの病院に運ばれて手術を受けた。関係者によると、より高度の治療を受けるため、首都カブール近郊のバグラム米軍基地に移送されている間に死亡した。
襲撃犯の正体は不明で、犯行声明などは出されていない。同国でテロを繰り返してきたタリバンはいち早く事件への関与を否定する声明を発表。「NGOとの関係は良好であり、攻撃はしない」と言明した。タリバンは米国との和平交渉を再開したばかりで、先月末、アフガニスタンを突然訪問したトランプ米大統領は「タリバンは和平合意を切望している」と述べていた。
このため、こうした時期にタリバンが国際的な非難を浴びる、NGOの外国人関係者を狙ったテロを起こすというのは考えにくい、というのが専門家の一致した見方だ。となれば、最も可能性ある組織として浮上してくるのはISの分派「ホラサン州」だ。
同組織は2015年、過激派組織「パキスタン・タリバン」から離脱した戦闘員らによって結成された。彼らはISの指導者で、10月に米特殊部隊によって殺害されたアブバクル・バグダディを信奉するイスラム原理主義者たちだった。イラクとシリアのIS本家が米主導の有志連合軍の攻撃で弱体化し始めるのとは逆に、ナンガルハル州を拠点に勢力を拡大。IS本家から資金援助を受け、最盛期には約6000人の戦闘員を有していた。