壊滅の危機、焦りのテロか
アナリストらによると、「ホラサン州」の目標はアブガニスタンや西南アジアに拠点を築き、「イスラム国」に続いて「第二のイスラム原理主義国家」を樹立することだったといわれる。シーア派教徒や異教徒を憎悪するところはIS本家と変わらないが、同じスンニ派のタリバンとも敵対し、戦闘を繰り返した。一時はナンガルハル州からタリバンを駆逐する勢いがあった。
同組織は2018年、カブールだけで20件を超えるテロを実行、同年の攻撃で死傷した民間人は約2200人にも上っている。「ホラサン州」は今年の夏もカブールの結婚式場で自爆テロを起こし、63人を殺害した。イラクやシリアで生き残ったISの戦闘員の一部がアフガニスタンに流入しているとの情報もあった。
しかし、米紙が米軍当局者の話として報じるところによると、同組織はこの数カ月の米軍特殊部隊とアフガン治安部隊による掃討作戦強化に加え、タリバンとの戦闘で急速に弱体化。今年初めの段階で3000人だった勢力は現在、約300人にまで減少し、組織壊滅の瀬戸際に直面しているという。地元メディアによると、11月だけでIS戦闘員とその家族ら1000人以上が政府に投降したとも伝えられている。
ガニ大統領は先月、こうした成果を受けて早くも「ホラサン州」の壊滅宣言をした。専門家の1人はバグダディの死亡が組織を動揺させ、戦闘員の投降を加速させていると分析している。しかし、イラクやシリアの実態を見ても、ISは簡単には消滅しない。テロの実行グループが依然残っているのは間違いなく、組織壊滅の危機に焦ったこうした一派が、外国人として著名な中村さんを襲撃した可能性は否定できないだろう。
IS勢力の弱体化が事実だとしても、アフガニスタンの治安悪化に歯止めがかかる見通しは全くない。国連機関によると、2018年の民間人の死者は、統計を取り始めた2009年以降最悪の3800人以上に上っている。今年9月に行われた大統領選挙の結果が今になっても発表されていないことが治安状態の悪さを浮き彫りにしている。
感謝祭に合わせてアフガニスタンの米軍部隊を慰問したトランプ大統領は、現在1万3000人規模の駐留軍を約8600人にまで削減する方針をあらためて確認した。だが、米軍の撤退が進めば、治安の悪化もひどくなるとの見方は強く、政情が安定する見通しは暗い。
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