2026年2月9日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2026年2月9日

 2026年1月6日の フォーリン・アフェアーズ誌は、AIが抑止と戦争に及ぼす影響と課題を議論するブレッド・ベンソンとブレッド・ゴールドスタインの論文を掲載している。

(guirong hao/gettyimages)

 人工知能(AI)は、国家安全保障における意思決定のあり方を根本から変えつつある。すでに各国の軍隊は、衛星画像やドローン映像の解析、敵の兵力・装備・即応態勢の評価等について、生成AIを組み込んでいる。

 AIは膨大なデータを高速かつ体系的に処理できるため、人間の能力を補完し、危機対応の迅速化と精緻化を可能にすると期待されてきた。しかし同時に、こうした高度なAIの普及は、従来の抑止理論が前提としてきた条件を揺るがし、抑止力を損なう新たな脆弱性を生み出す危険性をはらんでいる。

 軍事力の一部は兵器や部隊の展開といったハード面の可視的要素によって示されるが、即応態勢、動員能力、指揮統制の実効性、さらには政治指導者の決意といったソフト面の要素は外部から把握されにくい。したがって、抑止力の成否は、国家が自らの能力と意思をどれほど明確に敵対国に伝達できるかに大きく依存する。

 AIは一見、この抑止の信頼性を高める技術のように思われる。より優れた情報収集、より迅速な評価、より一貫した意思決定は、防御側の能力と決意を敵対国に明確に示すことを可能にする。実際、ウクライナ戦争では、AIを用いた画像解析やデータ統合により、ロシア軍の部隊移動、補給線、ミサイル基地が特定され、防衛計画立案に貢献している。AIはまた、膨大な情報を統合して複数のシナリオを検討するので、指導者に長期的な戦略的一貫性を与え得る。

 しかし、AIが抑止力を支える中核的要素になればなるほど、その弱点も深刻になる。敵は、AI そのものを標的にすることで、防御側の認識や判断を内側から崩すことができる。

 影響力行使作戦の分野では、生成AIとデータ科学の進展により、敵は従来とは比較にならない精度と規模で世論や意思決定者を標的にできる。かつての宣伝工作は、年齢や地域、政治傾向という属性で集団を分類したが、現在では個人の心理的傾向、関心、価値観等を分析し、最適化されたメッセージを自動生成・配信することが可能となっている。

 AIによって作られる「合成ペルソナ」は、実在の人物と見分けがつかないほど精巧で、長期間にわたって自然な投稿履歴や交友関係を構築できる。これらが複数のSNSで展開され、偽情報は真実のような印象を与え、社会の了解事項を侵食する。


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