2024年12月22日(日)

中東を読み解く

2019年11月18日

(ru_/gettyimages)

 シリアなど中東で影響力拡大を続けるロシアが今度は北アフリカのリビアに民間の傭兵部隊を送り込み、トリポリ中央政府に戦いを挑んでいる民兵組織「リビア国民軍」のカリファ・ハフタル将軍(75)への本格支援に乗り出した。傭兵部隊のスナイパーによる射撃ですでに犠牲者が多発しており、ロシアの介入でリビア情勢は激変しようとしている。 

ホローポイント弾

 ロシアの傭兵部隊とスナイパーの展開が明らかになったのは中央政府派の民兵組織が11月、西側メディアを首都トリポリ近郊の最前線の視察に同行したことからだ。リビア東部のトブルクに拠点を置くハフタル将軍は4月、トリポリに向けて軍団を進撃させ、内戦が一気に激化した。しかし、9月になって戦況は膠着状態に陥り、その間隙を縫って傭兵部隊約300人がリビアに入った。

 この傭兵部隊は民間警備会社「ワグネル」の所属。同社の代表エフゲニー・プリゴジン氏はプーチン大統領と近く、シリアにもアサド政権支援で地上部隊を派遣していることが分かっている。同氏は2016年の米大統領選への関与の容疑で、米国内で起訴されているいわくつきの人物だ。「ワグネル」の傭兵部隊はウクライナ東部やリビア西部、中央アフリカなどにも展開していると伝えられている。

 米ニューヨーク・タイムズ紙などによると、スナイパーは長射程の射撃で政府系民兵組織の戦闘員の頭部などを狙い、何人もが犠牲になった。弾丸は「ワグネル」の傭兵が使用することで知られるホローポイント弾で、シリアなどでも使われているとされる。この種の弾丸は貫通せずに体内に留まるため、より殺傷能力が高いのが特徴だ。バシャガ中央政府内相はロシアの介入について「まさにシリアと同じ状況だ」と指摘している。

 リビアでは2011年、カダフィ大佐率いる独裁政権がアラブの春と西側の反政府勢力支援で打倒され、各派入り乱れる内戦に発展。中央政府、「リビア国民軍」など4派に分裂した。中央政府発足には国連が主導した。アラブの春の際、西側の軍事介入を許したことを後悔するロシアは2015年ごろから、ハフタル将軍の支援を開始した。

 ロシアはモスクワで数百万ドルに相当するリビア紙幣を刷って将軍に届けたり、将軍を支援するためエジプト西部の砂漠地帯に基地を設置し、軍事顧問団を派遣したりした。しかし、支援は全体として秘密なものにとどまっていたが、今回、傭兵軍団を派遣することで、本腰を入れた介入に乗り出したことが明らかになった。その背景には2つの大きな理由があると見られている。


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