ニューヨーク・タイムズ(10月30日付)によると、米特殊部隊に追い詰められて自爆した過激派組織「イスラム国」(IS)の指導者アブバクル・バグダディは敵対組織のアルカイダ一派に多額の“用心棒代”を支払い、警護してもらっていたが、最後には自ら信頼していた身内の腹心に裏切られていたことが分かった。その悲惨な末路があらためて浮き彫りになった。
用心棒の料金は約700万
同紙によると、敵対組織に身を任せるというバグダディのこの意表を突くような行動が分かったのは、用心棒として雇ったシリアのアルカイダ系過激派「フラス・アルディン」に支払った料金の領収書からだ。同紙は専門家の本物だという鑑定とともに、一枚の領収書のコピーを掲載した。領収書は米情報工作員だった人物の手助けで、シリアのIS事務所から発見された帳簿に含まれていた。
領収書は全部で8枚見つかった。領収書の日付は2017年初めから2018年半ばまでで、ISが首都ラッカの陥落(17年10月)から敗退していった時期と合致している。領収書にはIS治安省のロゴが入っており、「フラス・アルディン」メンバーが受領したとして、署名している。金は米ドルで支払われており、8枚の合計は6万7000ドル(約700万円)。
領収書の名目は、警護料、インターネット・通信機器代、給与、送迎料金などだ。そのうち、同紙がコピーを掲載した18年夏の1枚は金額が7000ドルで、ISの拠点のあったシリア東部から避難してきた“兄弟たち”のための拠点作りのためとされている。このことから、「フラス・アルディン」がバグダディの用心棒としての役割を担うと同時に、敗北したIS戦闘員の逃亡をビジネスとして請け負っていたと見られている。
「フラス・アルディン」はシリアのアルカイダ系組織の中では小規模ながら最凶の組織として米国がその動向を追跡していたグループだ。シリアのアルカイダ系組織で最大の組織は「シリア解放委員会」(旧ヌスラ戦線)で、その勢力は約3万人。こうしたアルカイダ系組織はトルコ支援の反政府勢力と混在する形で、最後の拠点、北西部イドリブ県を根城にしている。
バグダディが潜んでいたトルコ国境に近いイドリブ県のバリシャ村の隠れ家は「フラス・アルディン」の司令官モハメド・サラマの邸宅だったと伝えられている。米軍は26日の急襲作戦後、この建物を空爆で完全に破壊した。サラマの生死は不明だ。