中東を読み解く

2019年10月26日

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 米軍の撤退やトルコ軍の侵攻で混乱が続いたシリア情勢はロシアのプーチン、トルコのエルドアン両大統領による首脳会談で、クルド人の国境地域からの排除とトルコの「安全地帯」設置に合意、事実上シリア分割の“新地図”ができ上った。なによりも印象付けられたのはプーチン氏の存在感で、中東全体に及ぼす影響力は揺るぎないものになった。

パトロールするロシアの軍用車両(AP/AFLO)

“第二のサイクス・ピコ協定”

 10月22日にロシアの黒海の保養地ソチで行われた首脳会談の合意では、トルコ軍が侵攻したシリア北部に「緩衝地帯」を設置し、29日までにその地域からクルド人武装組織「人民防衛隊」(YPG)を撤退させ、撤退後はロシアとトルコが国境から10キロの範囲内で合同パトロールを行うというものだ。

 「緩衝地帯」の東西の外側にロシア憲兵隊やシリア国境警備隊が展開してクルド人の排除と武器の押収に当たるが、YPGの撤退後は「緩衝地帯」の管理権はトルコに委ねられる。侵攻作戦の範囲はシリア国境の町テルアビヤドからラスアルアインまでの「東西120キロ、南北32キロ」と明らかになった。

 重要なことは「緩衝地帯」の管理権をトルコ側が握るという点だ。トルコは敵対するクルド人の脅威から防衛するためとして、国境の東西440キロにわたって「安全地帯」を設置する計画を持っており、ロシアは「緩衝地帯」という名目でトルコ側の要求を半ば受け入れた格好だ。トルコはシリア難民360万人を収容しているが、負担を軽減するため、うち200万人をこの地域に送還したい考えと言われている。

 エルドアン氏は合意後、トランプ米大統領に電話、「クルド人との停戦の恒久化」を伝達しており、シリア北部を今後とも支配する意向を明確にしたと見られている。領土を侵略された形のシリアのアサド大統領は、プーチン氏からの説明を受け、合意に賛同したとされているが、後ろ盾であるロシアがまとめた合意を断ることはできなかったようだ。

 ベイルートの情報筋は「内戦で政権が倒れるところを救ってやったのだから、領土の一部を失うくらい我慢しろということではないか。いずれにせよ、ソチ合意により、シリアの分割が決まった。ロシアの管理の下、トルコが北部の一部を支配するという新地図ができ上った」と述べ、合意を“第二のサイクス・ピコ協定”と呼んだ。同協定は第一次世界大戦後のオスマン帝国の分割を決めた英仏ロの密約である。

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