ペンス米副大統領は10月17日、トルコの首都アンカラを訪問してエルドアン大統領と会談、シリア北部の停戦で合意したと発表した。しかし、ペンス氏はトルコ軍の撤退を要求せず、トルコが侵攻によって確保した「安全地帯」を追認する形になった。米国が大きく譲歩したのは、トルコに配備した戦術核爆弾50発をトルコ側の“人質”に取られているという切迫した理由があるようだ。
もはやトルコと米国の問題ではない
アンカラからの報道などによると、ペンス氏にはポンペオ国務長官、オブライエン大統領補佐官らが同行、「大物がそろってエルドアン詣でをした格好」(アナリスト)となった。5時間もの会談の後、ペンス氏が記者会見で明らかにした合意内容は、以下のようなものだ。
トルコの攻撃を受けるクルド人の武装組織「人民防衛隊」(YPG)が5日間の停戦の間に、国境沿いの「安全地帯」の範囲から撤退する。「安全地帯」はトルコ軍が管理する。米軍が撤収した後にアサド政権軍やロシア軍が展開したシリア北部の要衝マンビジなどの扱いについては、今後ロシアと協議する。米国がトルコに科した鉄鋼関税の引き上げなどの経済制裁については、トルコが停戦を履行すれば解除する。
ペンス副大統領は「合意は暴力に終止符を打つものだ。生命を救う解決策だ。米国は望んでいた停戦を達成した」などと成果を強調した。しかし、トルコ軍の撤退については言及されておらず、事実上、トルコの侵攻と、国境から幅30キロ、長さ約400キロにわたる「安全地帯」創設を追認した形となった。
トルコのチャブシオール外相は「これは停戦ではない。作戦の一時休止にすぎず、撤退を意味するものではない。米国は安全地帯の重要性を理解した。われわれは望んでいたものを獲得した」と“勝利宣言”。実際に停戦が発効するのか、また5日間の停戦期間が過ぎた後に戦闘が終結するのかなど数多くの疑念が残る合意となった。
最大の問題は「もはや米国とトルコだけの問題ではないということだ。ロシアやシリアのアサド政権との合意も必要となり、状況は一段と複雑になった」(同)。アラブの専門家らによると、トルコは「安全地帯」の創設を完了するまで今後も作戦を続行し、YPGとの小競り合いは続く可能性が高い。