2022年8月8日(月)

中東を読み解く

2019年10月18日

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与党共和党も反旗

 エルドアン大統領が今回、最終的にシリアへの侵攻作戦を決断したのはトランプ大統領が侵攻を黙認する“青信号”を出したためだ。エルドアン氏が6日の電話会談で、“テロリスト”のクルド人を掃討するためとして、トランプ氏に侵攻の考えを伝えた後、ホワイトハウスはトルコとシリアの国境沿いに展開する米部隊約50人を戦闘に巻き込まれないよう撤退させると発表した。エルドアン大統領がこれを米国の侵攻黙認と受け取ったのは当然だった。

 トランプ大統領はさらにシリア北東部に駐留していた全部隊1000人を撤退させると発表、すでに部隊はイラクなどへの撤収を開始した。苦境に追い込まれたのはクルド人だ。米国の先兵としてIS壊滅作戦を戦い、大河ユーフラテス川東部地域の支配圏を固め、つかの間、独立国家樹立の夢を見たものの、トランプ氏から梯子を外され、トルコ軍の攻撃にさらされることになったからだ。

 米国に見捨てられたクルド人にとって選択肢は1つしかなかった。それは緊張関係にあったシリアのアサド政権と手を組み、「反トルコ同盟」を結成することだった。両者を仲介したのはシリアに軍事介入しているロシアだ。米国の撤退はアサド政権を支援するロシアやイランとっては願ってもない展開。アサド政権にしても、黙っていてシリアの4分の1に相当するクルド人地域を奪回し、全土支配に大きく近づくことになる。

 米国の敵対勢力が一夜にして大きな利益を獲得したことに対し、トランプ大統領は内外から猛烈な批判を受けることになった。与党共和党の重鎮グラム上院議員は「オバマ前政権のイラク撤退よりも始末が悪い」と痛烈に批判。米下院は16日、米軍のシリアからの撤退に反対する決議を354対60という圧倒的多数で可決した。与党共和党からも120人以上が賛成し、トランプ大統領に反旗を翻した。

 下院の決議が可決された後、トランプ大統領は与野党の議会指導者をホワイトハウスに招いてシリア問題を話し合った。米紙などによると、大統領は民主党のペロシ下院議長から「あなたが敷いた道はロシアのプーチンの利益につながるものだ」と批判されると「私の意見では、あんたは“三流の政治家”だ」などと言い返した。

 大統領はさらに、軍などから尊敬を集めているマティス前国防長官も撤退に反対していると指摘されると、「彼は世界で最も過大評価された将軍だ」と酷評。「なぜなら彼は十分に強靭ではないからだ」と畳みかけた。しかし、大統領は内心、予想をはるかに超える批判に再選に悪影響を及ぼすとして動揺しているのも事実だろう。

 大統領が躍起になって「侵攻の青信号は出していない」と否定し、ペンス副大統領をトルコに派遣したのも、こうした危機感の表れだ。大統領は17日で在任1000日。しかし、トルコ侵攻で、安全保障問題や危機管理の対応の稚拙さを丸出しにした上、「ウクライナ疑惑」でも弾劾調査が進められており、大統領の窮地は一段と深まった感がある。

  
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