ペルシャ湾の一角、イラクで先週から始まった反政府デモは拡大の一途をたどり、10月7日までに治安部隊との衝突などで104人が死亡、6000人以上が負傷する深刻な事態となった。アブドルマハディ首相は改革案を提示し、沈静化を図っているが、デモは収まる様子がない。その背景には政府の腐敗が一掃されない中、隣国の大国イランの支配が強まることへの反発があるようだ。
なぞのスナイパーの暗躍
デモがバグダッドで始まったのは1日だ。インターネットやスマホのソシャルメディア(SNS)を通じた呼び掛けに若者らが集まり、汚職・腐敗の一掃や雇用の拡大、住宅などインフラの整備、イラン支配の脱却などを政府に要求し、市内をデモした。これに治安部隊が出動し、催涙ガスと実弾を発砲、死傷者が出たことで、若者らの行動に一気に火が付いた。
騒乱の拡大を恐れたアブドルマハディ政権はインターネットを使用できないようにしゃ断し、夜間外出禁止令を布告した。だが、同国のシーア派の最高指導者シスタニ師が金曜礼拝で、政府に改革を呼び掛け、デモ隊を支持するかのような姿勢を示したことから騒乱がさらに広がり、南部など全土へ波及。ナシリヤなど南部の都市では政府庁舎が放火された。
こうした中で、議会第1党「行進者たち」の指導者であるサドル師がアブドルマハディ首相の退陣と総選挙の実施を呼び掛け、政局に発展した。サドル師は「マハディ軍団」と呼ばれる強力な民兵組織の司令官でもある。首相はデモ隊の代表と会い、治安部隊の発砲で死亡した被害者の遺族への弔慰金の支払い、失業手当の増額、住宅建設の補助など17項目の改革案を提示したが、デモが収束に向かう兆しはない。
連邦警察によると、不気味なのはデモ隊と治安部隊双方が謎のスナイパーによる銃撃を受け、何人もの犠牲者が出ている点だ。これらスナイパーが治安部隊の内部の秘密組織に属しているのか、他の民兵組織の一員なのか、過激派のテロなのか、隣国の手によるものかは全く不明。言えることはデモに乗じて、イラクの騒乱を煽ろうとしたことだ。