ドイツ東部マグデブルクで20日夜、クリスマスマーケットに車が突っ込んだ。
この攻撃で、9歳の少年を含む5人が死亡し、200人以上が負傷した。重体となっている人も多い。
裁判官は、逮捕された50歳の男性容疑者について、裁判前の拘束を命じた。
警察は、この容疑者による単独犯行だとみている。
事件のあらましは
現地時間20日午後7時2分(日本時間21日午前3時2分)、緊急サービスに最初の通報が入った。
市中心部のクリスマスマーケットの群衆に車1台が突っ込んだとの通報だった。
警察によると、この時の通報では事故かもしれないとのことだったが、その後すぐに、意図的な犯行だと言うことが明らかになった。
車は車道から歩行者横断歩道に入り、マーケットの緊急車両専用入口を通り抜ける際に多くの人々を負傷させた。
未検証のソーシャルメディアの映像には、車が店舗の間の歩道を猛スピードで走り抜ける様子が映っていた。
目撃者たちは、急いで車の進路から外れたり、逃げたり、隠れたりしたと述べている。
警察によると、車はその後、来た道を戻ったが、渋滞で停止せざるを得なかった。市場にいた警官たちがここで運転手を逮捕した。
映像には、銃を持った警官が、停車した車の隣に横たわる男性を逮捕する様子が映っていた。この車は黒のBMWで、前部のバンパーとフロントガラスが大きく損傷していた。
警察は、これら全ての出来事が3分のうちに起きたと述べている。
犠牲者はどんな人たちか
9歳の少年と45歳、52歳、67歳、75歳の4人の女性がこの攻撃で死亡したことが確認されている。
また、200人以上が負傷し、そのうち少なくとも41人が重体だという。
当初は2人が死亡し68人が負傷したと報告されていたが、21日に地元ザクセン・アンハルト州のライナー・ハーゼロフ州首相が記者会見し、大幅に修正された数字を発表した。
ショッペンシュテット消防署は、死亡した9歳のアンドレ・グライシュナーさんに対し、フェイスブックの投稿で追悼の意を表した。
消防署によると、アンドレさんはマグデブルクから車で約1時間の距離にあるヴァーレの子供消防隊のメンバーだった。
容疑者の人物像
地元メディアは容疑者の名前を「タレブ・アル・アブドルモーセン」と報じている。
容疑者はサウジアラビア生まれの50歳の精神科医で、マグデブルクの南約40キロに位置するベルンブルクに住んでいる。
警察によると、容疑者は殺人5件、複数の殺人未遂、および危険な身体傷害の疑いで拘束されている。
攻撃の動機は不明だが、当局は容疑者が単独で攻撃したと考えていると報告している。
容疑者は2006年にドイツに到着し、2016年に難民として認定されたという。
また、他の元ムスリム(イスラム教徒)が湾岸諸国での迫害から逃れるのを支援するウェブサイトを運営しており、2019年にBBCのインタビューを受けていた。
ドイツ連邦政府のナンシー・フェーザー内相は、容疑者が「イスラム嫌悪」的な考えをもっているのは「明白だ」と記者団に述べた。
容疑者はソーシャルメディアで、イスラム教を声高に批判していた。また、ドイツ当局が欧州のイスラム化を画策しているという陰謀論を拡散していた。
さらに、ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」への共感を示し、党首や極右活動家の投稿を引用投稿していた。
マグデブルク警察のトム=オリヴァー・ランガンス署長は、警察が以前、容疑者について潜在的な脅威をもたらす可能性を評価したことがあるとし、「その議論は1年前のことだった」と語った。
フェーザー内相は独紙ビルトに対し、過去に当局がアブドルモーセン容疑者についてどんな情報をもっていて、どのような調査をしていたかを「詳細に」調べると述べた。
ドイツ移民難民庁はソーシャルメディアへの投稿で、容疑者に関する通報を受け、「真剣に受け止めた」が、同庁は捜査機関ではないため、通報を他の当局に回したと発表した。
当局が受け取った情報の一つは、サウジアラビア当局からのものと考えられている。
サウジアラビア政府に近い情報筋はBBCに対し、同国当局が「非常に過激な見解」を持つアブドルモーセン容疑者について、ドイツ当局に4回にわたって「口上書」を送って警告していたと述べた。
しかし、対テロ専門家はBBCに対し、若いサウジアラビア人女性たちがドイツで亡命を求めるのを支援する人物の信用を落とすため、サウジアラビア当局が、偽情報キャンペーンを展開していた可能性があると述べた。
ドイツ連邦刑事庁(BKA)のホルガー・ミュンヒ長官は、公共放送局ZDFに対し、2023年11月にサウジアラビアから通知を受け取ったと述べた。地元警察は適切な捜査措置を講じたが、問題は具体的ではなかったという。
また、容疑者は「当局とさまざまな接触があり、侮辱や脅迫を行ったが、暴力行為で知られていたわけではなかった」と付け加えた。
攻撃に対する反応
ドイツのオラフ・ショルツ首相は、X(旧ツイッター)で、「マグデブルクからの報告は最悪の恐れを呼び起こす」と述べた。
ドイツの公共放送局MDRによると、マグデブルク市で公共秩序を担当するロニー・クルーク氏は、クリスマスマーケットの閉鎖は続くとし、「マグデブルクのクリスマスは終わった」と述べた。
クリスマスマーケットのウェブサイトにも同様の内容が反映されており、攻撃後には黒い画面に哀悼の言葉が表示され、イベントの終了が告知されていた。
サウジアラビア政府は、Xで「ドイツ国民と犠牲者の家族への連帯」を表明し、「暴力を拒絶する」と強調した。
イギリスのキア・スターマー首相は、20日の夜に「マグデブルクでの残虐な攻撃に恐怖を感じた」とソーシャルメディアに投稿。「犠牲者、その家族、そして影響を受けたすべての人々」に思いを寄せていると付け加えた。
(英語記事 Who is Magdeburg market attack suspect Taleb al-Abdulmohsen?)