中東を読み解く

2019年10月9日

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 「知識も熟考することもなく衝動的に決断している」。過激派組織「イスラム国」(IS)との戦いで、米国の有志連合大統領特使を務めたブレット・マクガーク氏はトルコのシリア侵攻を承認したトランプ大統領の10月7日の決定を痛烈に批判した。「米国の中東政策を再び混乱の中に陥れた」(ニューヨーク・タイムズ)大統領の決定の背景と今後の影響について探った。

シリアとの国境で新たな戦闘配置に向けて戦車を移動させるトルコ軍(AP/AFLO)

猫の目の言動

 トランプ大統領は元々、中東などの紛争地からの米駐留軍を撤退させることを公約して大統領に就任した。このため、公約実現を優先させるあまり、現地の状況や米国の世界戦略に関係なく、しかも安全保障担当の側近や、国防総省、国務省などの進言を無視して直感や衝動で場当たり的な決断を下すことが多い。今回のトルコのシリア北部への侵攻承認はそうした典型的なケースと言えるだろう。

 トルコのエルドアン大統領はISとの戦いの結果、シリア北東部の支配を固めたクルド人勢力を自国の安全保障にとっての脅威と断じ、国境のシリア側に安全保障地帯を設置することについて、米国の了承を求めてきた。しかし、クルド人勢力は米国の要請を入れてISとの戦いの先兵となって血を流してきた米国の“盟友”であり、トランプ大統領自身もこれまでトルコのシリア侵攻とクルド人に対する攻撃に反対してきた。

 ところが、トランプ氏がエルドアン大統領と電話会談した数時間後の6日夜11時前、ホワイトハウスは突然短い声明を発表。「トルコが間もなくシリア北部に侵攻するが、米軍は侵攻を支持しないし、作戦に関与しない」と事実上侵攻を承認し、米軍部隊が国境周辺から撤退することも明らかにした。国境周辺の米軍部隊は50人程度だったが、すでに2カ所の拠点から撤退した。

 大統領は昨年12月、シリア駐留軍の完全撤退を唐突に発表した時も、エルドアン大統領との電話会談の直後だった。トランプ氏はホワイトハウスの発表から一夜明けた7日朝、この問題でツイート。「3年間我慢してきたが、今こそ馬鹿げた終わりのない戦争から手を引き、兵士を帰国させるときだ」と強調。「われわれは利益に合致するところで勝つために戦う」などと“損得勘定論”を主張してみせた。

 しかし、大統領のこの発言は国内外から猛反発を受けた。大統領の友人である共和党の重鎮グラム上院議員は「近視眼的で無責任な決定だ。イランとアサド(シリア大統領)とISにとって大きな勝利だ。トルコに全力で制裁を科す」と厳しく批判。共和党のマコネル上院院内総務やロムニー、ルビオ氏ら同党の有力上院議員も一斉に批判した。

 こうした批判にたじろいだのか、トランプ大統領は再びツイートし、「私が許容できない一線をトルコが超えたら、トルコ経済を完全に崩壊させる」と一転、侵攻に厳しい姿勢を示した。ただし、大統領の言う「一線」が侵攻のことなのかは明らかではない。また、現在シリアに駐留している約1000人が速やかに撤退するのかどうかも不明。国防総省当局者は一部が残留するとしている。

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