中東を読み解く

2019年10月31日

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裏切ったのは誰だ?

 同紙が報じたもう1つの新しい事実は、バグダディの居場所を特定することになった「証拠物件」を米側に提供したのがバグダディの「側近中の側近で、信頼していた腹心」(事情に精通した関係者)だった、というスパイ小説さながらの裏切りのドラマだ。

 米当局者の話として伝えるところによると、バグダディは7月にこの隠れ家に到着し、3カ月半を過ごしていた。米側はこの家にバグダディが匿われているかもしれないとは疑っていたものの、確証はまったく得られなかった。そうこうしているうちに、トランプ大統領が突然、シリアからの米軍撤退を表明、10月末の撤退期限を前に米軍には焦りの色が濃くなっていった。

 一方、トランプ氏に事実上見捨てられたクルド人の武装組織「人民防衛隊」(YPG)の情報部門は米軍の要請を受けてこの家を監視下に置き、バグダディの手掛かりをつかもうとしていた。そうした中、情報部門の工作員が邸内にいたバグダディの側近を籠絡した。側近はバグダディの「下着2枚と、血液サンプル」を入手し、情報部門を通して米側に提供した。米側はDNA鑑定でバグダディが滞在していることを確認、急襲作戦の実施につながった。

 「下着は白いボクサー型のもの」(米メディア)だったという。ワシントン・ポストが米当局者らの話として報じるところによると、裏切った側近はスンニ派のアラブ人。バグダディの潜伏先を探すなどの重要な役割を担っていたが、ISにより親族が殺害されたことなどからバグダディに恨みを抱いていたという。米軍の作戦が行われた時、この側近も建物の中におり、作戦後に米側に保護された。

 バグダディはISの配色が濃厚になった頃から、自分のインナーサークルにスパイが潜入しているのではないかと猜疑心を露わにしていたといわれ、側近の行動は文字通り、命がけのものだった。米側はかつて、アフガニスタンで信用した情報提供者が自爆し、中央情報局(CIA)工作員ら7人が爆殺された苦い経験があるだけに、この側近を信用するかどうか慎重な見極めを行った。

 米情報機関は急襲した特殊部隊が持ち帰った数台のパソコンと約5台の携帯電話の分析を進めており、ISの残党勢力の解明に全力を挙げている。特にバグダディの後継者が誰になるのかに関心を持っており、国務省が最近、500万ドルの賞金を懸けたハッジ・アブドラの行方を追跡している。アブドラはIS思想の理論家で、女をレイプし、性奴隷にすることを正当化したことで知られる。

 急襲作戦を指揮したマッケンジー中央軍司令官は30日会見し「ISが組織を建て直すには少し時間がかかるだろうが、平和な将来は見えない。なぜならIS思想はなお健在だからだ」と警告した。

  
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