2024年12月22日(日)

中東を読み解く

2019年12月28日

 トルコのエルドアン大統領はこのほど、内戦中のリビアの暫定政府を支援するため、軍派遣の方針を表明した。この派遣する部隊にはトルコの“私兵”として悪名高い残虐非道なシリア反体制派民兵も含まれているとされ、戦闘激化の懸念が高まっている。トルコの介入の背景には地中海の天然ガスをめぐる資源争いが色濃く投影されている。

(@emre_saygi_/gettyimages)

代理戦争が複雑化

 エルドアン大統領は軍部隊派遣を決定した理由として、リビアのシラージュ暫定政権からの正式な要請に基づくものと説明した。派遣軍の規模などは明らかにされなかったが、大統領は来年1月8日か9日に国会の承認を得て実施する考えを表明した。

 リビアは2011年にカダフィ政権が倒れて以来、国家分裂状態のままだ。現在は国連が主導して設立した首都トリポリを拠点とするシラージュ暫定政権と東部エジプト国境に近いトブルクを本拠とする軍事組織「リビア国民軍」(LNA)が対決している。

 LNAは元リビア軍のハフタル将軍が率い、4月からトリポリに向け進撃を開始、戦闘が一気に激化した。しかし、6月のトリポリ南郊の戦闘で、暫定政府軍がLNAに大打撃を与え、以後戦闘は膠着状態になった。だが、LNA側にロシアの警備企業ワグネルの傭兵軍団のスナイパー部隊が加わってから、暫定政府軍側に人的被害が続出。これまでの双方の戦死者は1000人に達している。

 エルドアン大統領はロシアが単なる軍事組織からの求めを受けて参戦しているのに対し、「トルコは正統な政府から要請を受けて派兵する」などと、軍事介入の正当性を強調した。しかし、ロシア政府当局者は「第三国の介入が内戦終結に導くとは考えられない」とトルコの派兵を批判した。

 内戦は単に、暫定政府とLNAの戦いではない。他のアラブ諸国などが両者を別個に支援し、代理戦争の様相を深めているのが実態だ。暫定政府には、国連や欧州各国、カタール、トルコが援助してきたのに対し、ハフタル将軍にはロシアやエジプト、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、ギリシャが肩入れしてきた。スーダンの民兵1000人もLNAの一角として参戦しているが、これはサウジが資金を提供していると見られている。

1カ月2000ドルの給料

 ロシアがハフタル将軍側についているのは、中東への影響力拡大と将軍が石油地帯を支配していることなどが要因だが、他の国の支援の理由はイスラム原理主義思想を支持するか否かが大きな基準だ。というのも、シラージュ暫定政権はそうした思想を持つ「ムスリム同胞団」の影響力が強いからだ。

 このため、同胞団に好意的なカタールやトルコは暫定政権を支持し、同胞団の台頭を国家体制の脅威とみなすエジプト、サウジアラビア、UAEなどはLNA側に立ち、代理戦争を展開してきた。特に、トルコとUAEはそれぞれ、暫定政府、LNAにドローンを供与し、空からの攻撃も激化させてきた。

 また、このリビアの代理戦争はそのまま中東での対立の構図を反映するものだ。イランと接近したカタールに対し、サウジアラビアやUAEが断交、カタールの経済的な封じ込めを図った。その苦境に手を差し伸べたのがトルコであり、トルコはサウジの反体制ジャーナリスト、カショギ氏殺害事件でサウジとの関係を極度に悪化させ、サウジは現在、トルコに事実上の経済制裁を科している。

 こうした代理戦争の構図はトルコが実際にリビアに部隊を派遣し、軍事介入することで複雑化するのは必至だろう。とりわけ、中東専門誌MEEによると、トルコの派遣部隊の中には、シリアの反体制派民兵組織が含まれることになり、一部はすでにリビア入りしているという。

 この反体制派には、トルコ系の「スルタン・ムラド部隊」や「スコール・アルシャム」「ファイラク・アルシャーム」などが含まれているが、リビアの内戦に参戦する理由として、2011年にシリア内戦が勃発した時、リビアから武器・弾薬の援助を受けたことに「報いるため」だとされる。

 彼らは派遣部隊に参加するための契約金として300米ドルを受け取り、リビアでは1カ月2000ドルの給与をもらう手はずになっている。だが、こうしたシリア反体制派民兵の実態は、トルコの息のかかったいわば“私兵”だ。先のトルコ軍のシリア侵攻の先兵役を担ったが、クルド人を無差別に処刑し、誘拐、レイプなどの悪行を続けたならず者集団との指摘も強い。

 こうした“私兵”を派遣するのはトルコ軍の正規部隊が被る損害をできる限り抑えたいとするエルドアン大統領の深謀遠慮が働いていると見られている。だが、悪評の高いこうした武装勢力を参戦させれば、戦闘がさらに陰惨なものになる恐れもあり、リビア情勢は一段と混とんとしたものになるだろう。


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