か細く維持されてきたガザのイスラム組織ハマスとイスラエル軍の停戦合意が事実上崩壊した。イスラエル軍は3月18日未明、ガザの80カ所を爆撃、500人以上が死亡した。

政権を死守するためいったん離脱した極右政党を復帰させるためのネタニヤフ首相の「大博打」だ。浮かび上がるのは内政の危機を戦争ゲームで挽回しようという首相の姿だ。
極右復帰を画策か
イスラエル政界で最長政権を生き抜いてきた海千山千の首相もさすがに焦っていた。3月末までに2025年の予算案の承認を国会で得なければ、ネタニヤフ内閣は自動的に解散・総選挙に追い込まれることになるからだ。しかし、予算案が通れば、26年10月の次期の総選挙まで政権は存続できる。
だが、問題は予算案を通すための国会での過半数獲得が微妙な点だった。イスラエル国会の定数は120議席。1月に停戦合意が発効する前はネタニヤフ首相の支持基盤は68議席で、ゆうに過半数を超えていた。
しかし、極右のベングビール国家治安相率いる「ユダヤの力」(6議席)が合意に猛反発して政権を離脱。政権基盤は62議席という過半数ギリギリの状態に追い込まれた。
ここで今度は政権内のユダヤ教超正統派の一部が「超正統派の徴兵免除法案が通らなければ政権を離脱する」と首相に揺さぶりをかけた。超正統派はユダヤ教の教義学修のためとして、これまで徴兵を免れてきたが、ガザ戦争をきっかけに兵員が不足。平等負担の声が高まり、政権は超正統派の若者にも徴兵を強いるべきだとの声に応じざるを得なくなっていた。
だが、超正統派の離脱を許せば、政権は崩壊するのは目に見えていた。窮地に陥ったネタニヤフ首相が取った策はハマスに難くせを付け、停戦合意を破って攻撃を再開、「ユダヤの力」を復帰させる「大博打」だった。停戦合意の第1段階は3月1日に終了していたが、恒久停戦をめぐる協議の第2段階は入口で完全にストップしていた。
これを注視していた米国は頃合いを見て、ハマスが人質10人を解放するのと引き換えに停戦を50日間延長するという新提案を提示。ネタニヤフ氏は「わが意を得たり」と提案に賛同、ハマスは当初の合意を進めるべきだと拒否した。