トランプ米大統領は4日、イラン革命防衛隊の精鋭部隊コッズのソレイマニ司令官殺害で米国に報復があれば、イランの重要施設など52カ所を標的にすると警告した。司令官の遺体はイランに戻ったが、全土で反米感情が高まっている。イラクでもアブドルマハディ首相が米軍撤退の決定をするよう緊急措置を議会に要請、中東情勢は一段と緊迫の度合いを深めてきた。
政治的暗殺を容認しない
大統領はフロリダ州の別荘「マール・ア・ラーゴ」からツイート、ソレイマニ司令官を「テロの首謀者」と呼んで殺害を正当化。イラン側から報復があった場合は、イランの文化施設など52カ所を標的にすると強くけん制し「攻撃は迅速かつ激しいものになるだろう」と警告した。
大統領は52カ所を目標にしたことについて、1979年のイラン革命当時に発生したテヘランの米大使館人質事件を引き合いに出した。人質になった外交官らの人数が52人だったのだ。だが、大統領の言動には人質事件を火遊びに使った“不必要な挑発”との批判が出ており、イラン側をさらに刺激するのは必至だ。中東全域の米軍基地やイランの敵国であるイスラエル、サウジアラビアなども厳戒態勢を強化している。
イラン側も負けてはいない。大統領の発言に先立ち、イランのタスニム通信によると、イラン軍のアブハムゼ司令官は「中東地域の35カ所の米拠点とテルアビブがわれわれの攻撃の射程内にある」と述べ、「米艦船が頻繁に航行する」ホルムズ海峡にも言及した。
司令官と一緒に指導者が殺害された親イランのイラク民兵「カタエブ・ヒズボラ」(神の党旅団)は4日、イラク治安部隊に対し「5日夕から米軍基地の半マイル以内に近づかないよう」警告し、米軍への攻撃を示唆した。既にバグダッドなどでは4日、米軍駐留基地を狙ったロケット弾攻撃が発生している。
現地からの報道によると、こうした軍事的緊張の高まりの中、イラクのアブドルマハディ首相は5日、「国家主権を守るため」米主導の有志連合を含む「外国軍部隊」の国外退去日程を設定するよう議会に勧告した。首相はソレイマニ司令官の殺害について「これは政治的な暗殺だ。外国部隊はイラク軍の訓練などのために駐留しているはずだ。イラクは勝手な軍事行動は許さない」と非難、名指しを避けながら米軍の撤退を要求した。
イラクには過激派組織「イスラム国」(IS)の復活阻止や治安安定の名目で、約6000人の米軍が駐留している。米国の思惑としては、駐留目的はイラクのためというより、イランの行動を監視し、シリアでのISの活動を抑止することに主眼が置かれている。今回の撤退要求により、中東政策を根底から見直さざるを得なくなるだろう。