WEDGE REPORT

2020年1月6日

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滝田洋一 (たきた・よういち)

日本経済新聞社編集委員・テレビ東京『ワールドビジネスサテライト』解説キャスター

1981年慶應義塾大学大学院修了。金融部、チューリヒ支局、米州総局編集委員などを経て、2011年より現職。08年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。近著に『世界経済 チキンゲームの罠』(日経プレミアシリーズ)。

売り言葉に買い言葉

 米国とイランの緊張はある意味で、売り言葉に買い言葉の様相を呈している。18年5月にはトランプ政権がイランをめぐる核合意から離脱し、真綿で首を絞めるようにイランへの経済制裁をジリジリと強めていった。

 19年6月にはイランが米無人偵察機を撃墜した。その時にはトランプ大統領はイラン攻撃をいったん命令しつつも、10分前になって撤回した。「軍事攻撃は無人機撃墜への報復措置としては釣り合いが取れない」。トランプ氏は撤回の理由をそう説明した。

 19年9月にはサウジアラビア東部のアブカイクの石油施設が外部からの攻撃を受けた。イエメンの親イラン勢力であるフーシ派が攻撃を表明したが、米国はイラン自身による関与を指摘した。それでもトランプ政権はイランそのものへの攻撃を慎重に避けた。

 そして、今回の米軍による司令官殺害である。米国が一気に行動をエスカレートさせたかのような報道もあるが、イラクを舞台にした米とイランの緊張の高まりが見逃せない。19年12月27日にはイランが支援するとされる武装勢力の攻撃で米民間人1人が死亡、米兵4人が負傷していた。

 「忍耐も限界に達した。警告でなく行動に出る必要が生じた」。米国務省高官はそう語る。キーワードは19年6月にトランプ大統領が用いた「釣り合い」という言葉だ。その際は空爆でイラン側に150人の死者が出る可能性が報告され、無人機撃墜で米国側に死傷者はないなか、釣り合わないと判断した。

 今回は米国側に死傷者が出ている。そこで釣り合いを取るために、報復攻撃に打って出たというわけだ。殺害したカセム・ソレイマニ司令官は、15年6月25日の「Wedge Infinity」が、「革命防衛隊のなぞの将軍」として人物像を紹介している(佐々木伸・星槎大学大学院教授)。

「ソレイマニ将軍は、イラクに対するイランの影響力を強化し、米軍をイラクにがんじがらめにして、最終的には敗走させる、という戦略を立案。この目標を達成するためイラクのシーア派を密(ひそ)かに支援、訓練し、米軍を攻撃させた」

「将軍は米国から見れば、駐留米軍への影の戦争を仕掛ける黒幕だった。いまでも将軍は、テロ活動に関与したなどとして米財務省の制裁リストに載っている」

 もっともソレイマニ司令官は、米国側にとっては「本当に邪悪な人物」であっても、イランにとっては「英雄」そのものである。イランのラバンチ国連大使は1月4日、米CNNのインタビューで「軍事行動には軍事行動で対応する。司令官の暗殺はイランへの宣戦布告に等しい」と述べた。

 中東地域にある35の米関連施設や対立するイスラエルの都市テルアビブ、ホルムズ海峡を航行する船舶などが攻撃目標の候補になる。革命防衛隊幹部のアブハムゼ氏が、報復攻撃を明言したと報じた。対するトランプ政権は米兵3000人前後を中東地域に追加派遣する検討に入った。

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