今月末に期限を迎えるイラン核協議が土壇場の交渉に入っている。イランと欧米など6カ国による最終合意を達成できるかどうかは、中東地域ばかりか世界の安定に大きくかかわってくる。協議のカギを握っている1人がイラン革命防衛隊のなぞの実力者、カセム・ソレイマニ将軍というのはあまり知られていない。
英雄に映画化の話も
1つのエピソードがある。いまや、イランの影響力が強まり、その“属国化”しつつあるイラクの高官がテヘラン詣でをする際、対外政策や安全保障問題で意見を拝聴するのは、イランの大統領でも外相でもない。「イラクでのイラン人の活動に関してただ1人権限を有する者」と自ら漏らしたことのある人物だ。最高指導者ハメネイ師から全幅の信頼を受けて、特にイランの対外政策の裏面を統率する影の実力者でもある。
畏怖をもって見られるこの人物こそ、イラン革命防衛隊のエリート部隊「コッズ」の司令官、カセム・ソレイマニ将軍だ。将軍の行動は神出鬼没だ。テヘランにいたかと思うと、翌日には過激派組織「イスラム国」掃討作戦を展開中のイラク・ティクリートの前線にいて、イラクのシーア派民兵軍団を指揮している、といった具合だ。
同将軍の横顔はながらく秘密のベールに包まれていたが、最近になってイランのメディアが祖国の国防に尽くす英雄として取り上げ始め、将軍の活躍を題材にした映画を製作しようとの動きも表面化、将軍自ら「映画化されれば国への奉仕が続けにくくなる」と抗議したいきさつもあった。
将軍は80年代のイラン・イラク戦争で革命防衛隊第41師団の指揮官として前線からイラクに深く潜入して大胆な偵察任務を指揮、軍事部門の中で頭角を現した。90年代後半に革命防衛隊の特別精鋭部隊である「コッズ」の司令官に抜擢され、その後はイランの西方への進出、特にイランから地中海に至るイラク、シリア、レバノンという「シーア派三日月ベルト」の確立と死守を戦略的な目標として推進してきた。