2024年11月22日(金)

WEDGE REPORT

2015年6月25日

 この戦略に基づいて、レバノンではシーア派武装組織ヒズボラを最強の武力集団に育て上げ、イラクでは多数派のシーア派を訓練してバドル軍団やキタエブ・ヒズボラといった民兵組織を創設させた。シリアでは内戦当初、崩壊寸前までいった長期独裁のアサド政権をテコ入れ、軍事顧問団を派遣するとともに、ヒズボラやイラクのシーア派民兵を政権支援で送り込んだ。アサド政権が現在、なんとか持ちこたえているのは、イランの支援、もっと言えば、ソレイマニ将軍の後押しがあるからである。

 イラクのイスラム国との戦いでは、自ら再三イラク入り、前線の指揮を執るとともに、イランからファジル5などのロケットを搬入するなど武器援助を強化した。3月の、ティクリート奪回作戦では、「将軍を見た。彼がいるならもう勝ったも同然だ」というシーア派民兵らの声も多かった。

不倶戴天の敵

 しかし、こうした将軍も米国にとっては思い出したくもない不倶戴天の敵だ。2003年にイラクに侵攻した米軍に対し、イラクの武装諸勢力がテロ攻撃を続け、2011年に撤兵するまでの間に将兵約4500人が戦死した。ソレイマニ将軍は、イラクに対するイランの影響力を強化し、米軍をイラクにがんじがらめにして、最終的には敗走させる、という戦略を立案。この目標を達成するためイラクのシーア派を密かに支援、訓練し、米軍を攻撃させた。

 米紙によると、イラク駐留軍の司令官だったペトレアス将軍は当時、イランが事実上、米軍に対して戦争を挑んでいる、などと国防長官に報告、その背後にソレイマニ将軍が暗躍しているとし、「本当に邪悪な人物」と将軍を批判した。将軍は米国から見れば、駐留米軍への影の戦争を仕掛ける黒幕だった。いまでも将軍は、テロ活動に関与したなどとして米財務省の制裁リストに載っている。

 米国のジレンマはイラクのイスラム国との戦いでは、将軍とは味方として戦わなければならないことだ。とりわけ、地上戦闘部隊を派遣しないことを大方針として掲げるオバマ政権にとって、イラン支援のシーア派民兵の協力は欠かせないのが現実。しかしティクリートの奪回作戦では米国は当初、空爆を渋った。というのも、ソレイマニ将軍が前線で指揮をしており、将軍を助けるような支援をしたくなかったからだ。米国は将軍が前線を離れ、イラク側に大きな損害が出始めた後にやっと空爆に踏み切り、イスラム国からティクリートを解放した。

 イラン核協議では、最高指導者のハメネイ師が最近、最終合意の達成されたその日から米欧の制裁を全面解除するよう要求し、また軍事施設の査察は認めないと強硬姿勢を打ち上げ、米国が反発を強めるなど、交渉の先行きに早くも暗雲が立ち込めている。このハメネイ師の強気の発言には、ソレイマニ将軍の助言があると見られており、将軍の言動に今あらためて注目が集まっている。

  
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