2024年12月23日(月)

中東を読み解く

2020年1月8日

 イラン革命防衛隊が8日未明、イラクの米軍基地を十数発の弾道ミサイルで攻撃したことで戦争拡大への恐れが一気に高まった。攻撃はソレイマニ司令官殺害の報復。しかし、イラン側は「均衡の取れた自衛措置は完了」(ザリフ外相)とメッセージを送り、矛を収める姿勢を示した。トランプ大統領は間もなく声明を発表する。緊張緩和か激化か。すべては大統領の決断にかかっている。

米軍基地へのミサイル攻撃に喜びの声をあげるテヘラン市民(REUTERS/AFLO)     

双方とも戦争拡大を回避か

 米メディアなどによると、イラン側の報復攻撃の可能性は7日午後2時(米東部時間)ごろまでに、米政権内部で確信に変わった。トランプ大統領の安全保障チームは攻撃の3時間半前にはホワイトハウス地下の状況作戦室に集まった。大統領もギリシャ首相との会談の後、作戦室に合流した。

 予期したようにイランのミサイル攻撃が行われた後、米兵らに被害が出たかどうかが最大のポイントになった。甚大な死傷者が出ていれば、速やかに報復しなければならなかったためだ。大統領はイランから報復があれば、イランの文化施設など52カ所を標的にすると警告してきた。

 被害があったかどうかは確定していないが、大統領は「すべて大丈夫だ。被害状況を点検しているが今のところ良い方向だ。われわれには世界のどこにでも、最強の装備された軍隊がいる」とツイートした。しかし、イランのメディアは米側に死傷者が出たと伝えているとされる。

 問題は戦争が今後拡大するかどうかだが、イラン側は重大なメッセージを送っている。ザリフ外相は「イランは自衛のため均衡の取れた措置を実行し、完了した。われわれは戦争の拡大を求めていない。しかし、米国の侵略に対しては防衛する」とツイート、米側が反撃しなければ、当面、攻撃を控えるとの姿勢を示した。

 米ニューヨーク・タイムズによると、革命防衛隊に近い2人も、外相と同じような趣旨の発言をしており、イラン政府の一致した方針と見られている。最高指導者ハメネイ師は7日の国家安全保障委員会に出席し、「革命防衛隊と明確に分かるような報復」を指示していた。

 司令官の殺害に関しては、イラン国民がこぞって報復を叫んでおり、民兵などの代理人を使った報復ではなく、防衛隊自身が攻撃するよう追い込まれていた。国民のガス抜きが必要だった。ただ、全面戦争になれば、そうでなくても米国の経済制裁に苦しむイランは国家破綻の窮地に立たされるのは必至。きちんと報復をした形を示して、矛を収めたいというのがイラン指導部の考えだろう。

 こうしたイラン側の意向にトランプ大統領がどう応えるのか。米国内では議会を中心に戦争拡大への懸念が高まっており、大統領としても2月から本格化する大統領選挙戦を前に、国民の人気がない戦争に突っ込むのは避けたいところ。加えて中東からの軍撤退という公約に逆行するような戦争には引きずり込まれたくない。米兵に甚大な被害がなければ、当面、攻撃を差し控える可能性が高いのではないか。


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