中東を読み解く

2020年1月30日

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レバノンの難民キャンプで、新和平案に抗議するパレスチナ人女性(AP/AFLO)

 トランプ米大統領はホワイトハウスで1月28日、イスラエルとパレスチナの中東和平案を発表した。イスラエル占領の現状をほぼ固定化した内容で、圧倒的にイスラエル寄りの提案だ。パレスチナ側は直ちに拒否した。弾劾裁判中の大統領と汚職容疑で起訴されたイスラエルのネタニヤフ首相。背景には中東和平を選挙に利用し、窮地から脱しようとする2人の思惑が透けて見える。

占領の現状を固定化

 この和平案は大統領の娘婿であるホワイトハウスのジャレッド・クシュナー上級顧問とグリーンブラット中東和平特使、フリードマン米駐イスラエル大使が中心となり、3年をかけてまとめた。

 発表された案によると、パレスチナ側は現在のヨルダン川西岸と東エルサレム地区に限定的な「国家」の創設を許されるが、その範囲はパレスチナ自治区の広さを定めたオスロ合意の約70%に縮小となる。一方で、ヨルダン川西岸や東エルサレム地区のユダヤ人入植地はイスラエルに組み入れられ、その主権が容認される形となった。

 イスラム、ユダヤ両教徒の聖地であるエルサレムについて、米提案はイスラエルの「永遠の首都」と認定、東エルサレムを将来の独立国家の首都とすることを主張してきたパレスチナ側の要求は無視された。その代わり、パレスチナ側には東エルサレムの外側の一部地域を「首都」として与えるとしている。

 トランプ政権は昨年6月、和平提案の経済部分「平和に向けた繁栄」だけを公表しており、今回発表された提案でもパレスチナ国家建設に500億ドルに上る国際援助を行い、これによって10年間で100万人の雇用を創出、失業率を10%以下に抑えるとしている。また西岸と飛び地であるガザ地区をつなぐトンネルも建設するという。

 しかし、形式上パレスチナとイスラエルの「2国家共存」は認めたものの、実際にはパレスチナ側に限定的な自治権を与えるだけで、安全保障や外交はイスラエルが管理することになるなど、独立国家同士の共存からは程遠い。「イスラエル占領の現状が追認されたにすぎない」(専門家)というのが実態だ。

 ネタニヤフ首相と一緒に提案を発表したトランプ大統領は「双方にとってウインウインの機会を提供するもので、現実的な2国家解決方式だ」と自画自賛、首相も「トランプ氏はイスラエルにとって、歴代米政権の中で最高の親友だ」と持ち上げた。

“世紀の侮辱”と非難

 しかし、パレスチナ自治政府のアッバス議長は提案を直ちに拒否。トランプ大統領が和平のとりまとめを「世紀の取引」と呼んできたことを皮肉り、“世紀の侮辱”と非難、「エルサレムやパレスチナ人の権利は売り物ではない。われわれは屈服しない」と強く反発した。パレスチナ側がきっぱりと拒否したことで、当面和平交渉が進展する見通しはなくなった。

 クシュナー顧問らは提案をまとめるに当たって、サウジアラビアやエジプト、ヨルダンなどのアラブ諸国を訪問して根回しに努めた。とりわけ、パレスチナへの主要な援助国となるサウジアラビアからの賛同に期待したが、サウジ外務省は「包括的な和平を進展させようとするトランプ政権の取り組みを歓迎する」との声明を発表しただけで、強い賛意を表明することは避けた。

 アラブ首長国連邦(UAE)の高官も「真剣なイニチアチブ」と評価する姿勢を示したものの、米提案を積極的に歓迎するアラブ諸国はなく、多数の支持を期待したトランプ政権にとっては極めて物足りない状況。一方で、トルコ外務省は「2国家共存を破壊するもの」と批判、米国との対決が続くイランの外務省は「パレスチナに対する世紀の裏切り」と強く非難した。

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