中東を読み解く

2020年1月30日

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刑事免責要求を撤回

 トランプ大統領の発表がネタニヤフ首相と並んで行われたことに象徴されるように、米国はイスラエルの主張を大幅に取り入れ、パレスチナ人の要求をほとんど排除した。その意味で、キャンプデービッド合意やオスロ合意で象徴されたように、調停者としてパレスチナ側の要求も考慮し、バランスを取った歴代政権の姿勢は初めから皆無だった。「パレスチナ側に屈服を強いた」と批判されてもやむを得ないだろう。

 注目したいのは発表のタイミングである。トランプ大統領については、米上院がウクライナ疑惑で弾劾裁判を開廷中。大統領に不利な証言をしかねないボルトン前大統領補佐官の証人喚問の動きが現実味を増すなど大統領は予想以上に窮地に陥っているとの見方も強い。

 再選を目指す大統領選も2月3日のアイオワ州の党員集会から本格化する状況にあり、トランプ大統領にとっては正念場。こうした中で大統領はイスラエルを支援する自らの支持基盤、キリスト教福音派に強烈にアピールする成果がなんとしてもほしかった。それがこの時期にイスラエルの主張を大幅にくんだ和平案を発表した本当の理由だったのではないか。

 一方のネタニヤフ首相は3月2日に総選挙を迎える身だ。イスラエルの総選挙はこの1年で3回目。過去2回の選挙では、ネタニヤフ首相が党首のリクードと、ガンツ元参謀総長率いる最大野党の中道政党「青と白」のいずれも過半数を獲得できず、連立政権樹立にも失敗した。

 首相は昨年11月に収賄など3件の容疑で起訴された刑事被告人であり、国会に対し、刑事免責の決議を求めてきた。しかし、首相は今回の訪米の帰途、「イスラエル国民の命運が決しようとしている時に、免責決議の議論などしていられない」と決議の要求を撤回、自ら退路を断って見せた。

 イスラエルに圧倒的に有利な和平案を米国から勝ち取り、国民に人気の高いトランプ大統領との親密ぶりを誇示したことで、選挙に勝てると踏んだようだ。だが、今回の和平案は決して恒久的な平和をもたらすことはないだろう。パレスチナ人はイスラエルへの憎悪を深め、不満は逆に高まった。

 トランプ氏は「商売人らしく、ニンジン(援助金)を鼻先にぶら下げれば、(パレスチナ側が)食いついてくると思い込んでいる」(アラブ筋)。しかし、同氏の筋書き通りに運ぶとは楽観視できない。過激派組織「イスラム国」(IS)は最近、「イスラエルとユダヤ人への攻撃を始める」と不気味な予告をした。選挙目当ての一方的な和平案のしっぺ返しが来ないという保証はない。

  
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