2025年1月10日(金)

WEDGE REPORT

2024年12月9日

 韓国の尹錫悦大統領が12月3日深夜、44年ぶりとなる非常戒厳を宣布し、世界中に大きな衝撃を与えた。戒厳はわずか6時間で終わり、尹大統領の弾劾訴追も否決された。いつもながら、ダイナミックな韓国政治を見る思いだが、事件がひと段落ついたということで、この事件の本質を振り返っていきたい。

非常戒厳を宣布し解除したことを国民へ謝罪する 韓国の尹錫悦大統領(提供:The Presidential Office/ロイター/アフロ)

スルーされている戒厳宣布した理由

 非常宣布とは、「戦争、事変または国家非常事態」に際して発せられるもの。韓国がそのような状況になかったことは明らかで、過去に戒厳が軍事クーデターに利用されたという歴史的事実があるため、与野党、マスコミ、世論は反尹錫悦一色になった。

 ただ、筆者が気がかりなのは、尹大統領が戒厳宣布した動機・理由が、ほとんどスルーされていることだ。

 戒厳宣布には、「反国家勢力による大韓民国体制転覆の脅威から自由民主主義、国民の安全を守る」とある。おどろおどろしい言葉が並ぶが、その辺の活動家が放った言葉ではない。日韓のメディアは、この動機・理由を妄想とハナから聞き流したが、一国の大統領が国民に呼びかけた言葉を無視するのは誠実な態度とは言えない。

 本来であれば、①反国家勢力とその脅威が存在するのか否か、②脅威が存在するのであればどのようなものなのか、③脅威に対して戒厳宣布という手段は適切なのか――の順で検証しなければならなかったはずだ。

 少しずつ状況が明らかになってくると、戒厳の目的が今年4月に行われた国会総選挙での不正選挙疑惑の解明にあったらしいことがわかってきた。

 他国に目を転ずると、ルーマニア大統領選にロシアが介入したことで選挙が無効になった。ロシアは米大統領戦、欧州連合(EU)議会選にも介入した疑いが持たれている。ロシアと軍事同盟を結んだ北朝鮮が韓国の選挙に介入していないとは言い切れないだろう。

 尹大統領が野党を反国家勢力と指弾した背景には、革新政党とその支持基盤である労組の幹部がたびたびスパイ事件などで逮捕された事実がある。つまり、尹大統領の目には北朝鮮に追従する野党と労組が不正選挙などを行って、体制を蹂躙していると映っているのだ。

 果たして、この認識は正しいのだろうか。実際に革新政党や労組が起こした事件を見てみよう。


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