ウクライナのゼレンスキー大統領は10月13日、自身のSNSで「ロシアと北朝鮮の結束が強まっている」と述べ、「北朝鮮から武器のみならず、人員も派遣されている」と批判した。そして、翌14日のビデオ演説では、「武器にとどまらず、北朝鮮から占領軍への人の移送も行われている」と、北朝鮮の“参戦”を示唆する発言もした。
ゼレンスキー氏は具体的な根拠を示していないが、同氏の発言に先立って、複数のメディアが「北朝鮮の将校6人が死亡」(4日付、キエフ・ポスト)、「ロシア軍の背後に短距離弾道ミサイルKN-23の管制システムを支援する北朝鮮軍人数十人が存在」(10日付、英ガーディアン)、「北朝鮮の歩兵1万人が、ウクライナ付近の国境地帯への配備とロシア軍との交代に備えてロシア極東で訓練を受けている」(16日付、キエフ・ポスト)など、具体的な情報を報じている。
これら報道が示すように、北朝鮮はロシア側に立ってウクライナ戦争に参戦しているのだろうか。筆者が北朝鮮に居住する現地協力者に確認したところ、昨秋から数十人規模の弾道ミサイル技術者が往来し、今年8月末に少なくとも数百人規模の工兵部隊がロシアに渡ったことが明らかになった。
昨秋からミサイル技術者を継続して派遣
親族が某前縁軍団司令部に勤務する男性は、ミサイル技術者の派遣について証言する。前縁軍団とは、38度線沿いに配置された部隊を指し、朝鮮人民軍の中でも装備の質が良く、練度も高いといわれる。
「軍団司令部に勤務する親族から聞いたところ、国防科学院とミサイル総局の技術者数十人がウクライナ戦線に送られて、弾道ミサイル発射の指導やデータ収集にあたっているそうです。技術者の派遣は昨秋に始まり、人を入れ替えながら数回にわたって派遣されていて、今春以降はミサイルの性能を向上させるために派遣人数が増えたといいます」
国防科学院とは、朝鮮労働党軍需工業部傘下の研究開発機関で、主に弾道ミサイルなど戦略兵器の開発を担う。これまでに北朝鮮が発射したノドンやテポドンなどは、すべて同院が開発したものだ。北朝鮮がミサイルを開発する際には、人民軍最高司令部や戦略軍が定めた性能要求に従い、国防科学院が主幹となって開発し、複数回の試験発射の後、実戦部隊である戦略軍に引き渡すという流れがとられる。
では、もう一方のミサイル総局とはどのような組織なのか。ミサイル総局は2016年に創設された組織であることはわかっているが、その実態は謎のベールに包まれている。正式名称の「朝鮮民主主義人民共和国ミサイル総局」が示すように、人民軍の組織ではなく国務委員会など中央機関の直轄組織であり、ミサイル事業全般を管轄しているとみられている。