中東を読み解く

2020年2月11日

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プーチンがどう決断

 イドリブ県の戦闘の行方はつまるところ、アサド政権の後ろ盾であるロシアのプーチン大統領がどう考えるかによって変わってくる。トルコの“最後通告”を無視してアサド政権にイドリブ制圧を成し遂げさせるのか、それともエルドアン大統領の意向に配慮して政権軍の進撃をストップさせるかだ。

 国際法的に言えば、他国に侵攻しているのはトルコであり、「安全保障上の脅威であるクルド人を国境地帯から排除するため」というトルコの主張は正当性を欠く。内戦のどさくさに紛れてシリアを侵略したことに変わりはないからだ。内戦の前であれば、確実に両国の戦争になっていただろう。

 だが、トルコの一連の侵攻は「プーチンが承認した」上でのことであり、昨年の「春の平和」作戦はトランプ米大統領が青信号を与えたという背景がある。いわば、米ロと地域大国トルコの政治取引の産物だ。そういう意味では、アサド政権も大国の身勝手さに翻弄されている1人ということが言えるだろう。

 プーチン大統領がどう動くかは予断を許さないが、ロシアがアサド政権軍のイドリブ攻撃を支援していることに対し、エルドアン大統領の不信感が募っていることは間違いない。エルドアン氏は先月末、「ロシアはトルコとの合意を順守していない。われわれは我慢の限界だ」などとロシアを珍しく非難した。

 こうしたエルドアン氏の非難に対し、ロシア国営のメディアは「トルコが過激派組織(旧ヌスラ戦線)の創設に手を貸した」「過激派の戦闘員はトルコから1カ月100ドルの給料をもらっている」などと批判。これにトルコの政府系有力紙は「プーチン政権は信用できない。ロシアはアサド政権軍にイドリブ攻撃をそそのかしている」などとやり返した。

 ロシアがトルコを批判している理由の1つは、エルドアン大統領が2月3日にロシアの敵対国であるウクライナを訪問し、「ロシアによるクリミア併合を認めない」というトルコの政策を強調したことも大きい。「イドリブ攻撃をけん制するためのウクライナ訪問」(専門家)という側面があったことは事実で、エルドアン大統領の天びん外交の真骨頂というところだ。

 エルドアン大統領はその後、プーチン大統領と電話会談し、「シリアにおける連携」で合意したと伝えられているが、両国の関係は2015年の「トルコによるロシア軍機撃墜以来、最悪の状況」(中東専門誌)との見方が強い。イドリブ県をめぐるアサド政権軍とトルコ軍の緊張の行方は「エルドアンとプーチンという2人の“独裁者”の関係修復にかかっている」(専門家)。

  
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