2026年2月6日付フィナンシャル・タイムズで、同コラムニストのジユリアン・テットが、トランプ政権では、立場を利用して自身の利益のために行動し(self-dealing)、逸脱した行動が正常なものとなる危険がワシントンで生じていると警告している。
ヘッジファンド・シタデルの創業者であるケン・グリフィンは、トランプは「政権内の人々の家族を甚だしく豊かにする決定または進路を選択している」と苦情を述べた。分かり易く言えば、ペテンが横行しているということだ。そのような観察は特段驚くべきことではないが、驚愕すべきことはグリフィンが明白なことを敢えて口にしたことである。
グリフィンが公然と声を上げるまでは、主要なビジネスの経営者で公にトランプを攻撃した者はいない。むしろ、諦めのムードが支配的だった。恐怖が一つの要素であり、貪欲がもう一つの要素である。
多くの経営者はホワイトハウスへのアクセスを維持したいと思っている。何故ならライバルの利益ではなく彼等自身の利益になる取引をしたいと希望しているからである。トランプの「分割統治」戦略が効いている。
しかし、3番目の要素もある。それは、エンジニアや社会学者なら指摘するかもしれない「逸脱の正常化( normalization of deviance)」の問題である。
1986 年、NASAの委嘱でチャレンジャー(スペース・シャトル)の爆発事故の原因調査に当たった社会学者ダイアン・ヴォーンは、安全のための作業手順の小さな違反に慣れっこになり、無視するようになり、「正常」の感覚が微妙に変化したことを指摘して、「逸脱の社会的な正常化とは、逸脱した行動に余りに慣れることによって、それを逸脱とは考えなくなることを意味する」とした。惨事が襲うまでは、誰もリスクが積み上がっているとは察知しない。
「逸脱の正常化」は大きな規模でも起きる。今日のワシントンはその好例である。
20年前であれば、バラク・オバマやジョージ・W・ブッシュが就任直前にアラブ首長国連邦(UAE)から彼等家族のビジネスに投資を呼び込んだなら、経営者達は、うなり声をあげたかもしれない。もし、彼等の配偶者の一人が所有する制作会社がAmazonと数百万ドルの映画製作の契約を結んだとなれば、同様にうなり声をあげたかも知れない。しかし、そのような話は今やほとんど正常化されている。
この間、経済と株式市場は引き続き活況を呈した。疑いもなく、これに最高経営責任者(CEO)が沈黙を続ける。そして逸脱を正常化する、もう一つの要因である。しかし、そこに危険が内在する。
