米大統領選まで我慢のイラン
イランの経済状況は米制裁でコロナ禍が加速する前からどん底状態にあった。石油の輸出が激減し、収入の落ち込みは2000億ドルを超えた。インフレ、失業の増加、通貨リアルの半減という三重苦にあえいでいた。そこへコロナウイルス禍が追い打ちを掛けた。国内総生産(GDP)が3分の1も縮小、国家予算も100億ドルの赤字となっている。
ウイルス感染者は5万5000人を超え、死者も約3500人にも上り、中東地域の感染中心地と化している。ラリジャニ国会議長や副大統領ら政府高官らも感染した。イランでまん延しているのは、2月後半に国内での感染が確認されたものの、ロウハニ政権が過小評価し、隔離などの対策が後手に回ったためだ。
最高指導者のハメネイ師は「ウイルスは米国によって作られた」と対米強硬姿勢を崩していないが、制裁で人工呼吸器などの医療用品を外国から購入できないことに困っているのが本音。ザリフ外相は米国の制裁を「経済テロ」「医療テロ」と非難、「われわれは制裁の不当性を言ってきたが、コロナ禍は不正義を世界にさらした」と米国に制裁の解除を呼び掛けた。国際社会に人道的危機を強調して、なんとか制裁緩和の圧力にもっていきたいという思惑だろう。
だが、ポンペオ国務長官はツイッターで「イランの制裁解除に向けた取り組みはウイルスと戦うためではなく、指導者らが現金を入手するためだ」と一蹴した。イランも米国が制裁解除に踏み切るとは思っていないが、希望を託しているものがある。
それは11月の米大統領選挙だ。トランプ氏が民主党の対立候補にほぼ確定しているバイデン前副大統領に敗れ、新大統領が誕生すれば、制裁解除の可能性が出てくると踏んでいる。コロナ禍を自力で乗り切り、11月3日までをじっと我慢する、というのがイランの戦略のように見える。だが、トランプ大統領が選挙直前に劣勢と感じれば、イラン攻撃で逆転を狙うというオクトーバー・サプライズもあり得えるだろう。
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