中東を読み解く

2020年3月10日

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 サウジアラビア王室の“粛清劇”は相当大掛かりな規模である様相が深まってきた。権力闘争を仕掛けたムハンマド皇太子(34)は約20人の有力王族らを逮捕ないしは査問する動きに出ていると見られている。中東専門誌は皇太子が11月のリヤドのG20サミット前に王座に就き、サミットを「新国王のお披露目の場にしたい」思惑だ、と指摘している。

サルマン国王(右)と、ムハンマド皇太子のポスター(AP/AFLO)

国王に退位迫る可能性

 中東各国の内部情報に定評のある中東専門誌「ミドルイースト・アイ」(MEE)などが報じるところによると、これまでに逮捕されたことが分かっているのは、サルマン国王(84)の実弟で皇太子の叔父のアハメド・アブドルアジズ王子(78)、皇太子のいとこのムハンマド・ナエフ前皇太子、アハメド王子の息子で、元陸軍情報部長官のナエフ・アハメド王子、そして前皇太子の弟のナワフ・ナエフ王子の4人だ。いずれも王族の中で最有力の人たちだ。

 同誌は今回の粛清で約20人の王族が拘束されたとの情報を伝えている。米ワシントン・ポスト紙も少なくとも15人が査問されるか、されつつあるとの見方を報じており、粛清の規模は相当大掛かりなものと見られている。また4人が逮捕された状況も漏れつつあり、アハメド王子は国外の鷹狩り旅行から帰国した翌日の6日に逮捕された。

 王子は5日夜に「国王が会いたいと言っている」というメッセージを受け取り、6日朝に王宮に出向いたところを逮捕された。消息筋は同誌に「完全なだまし討ち」と語った。アハメド王子らは刑務所に収監されているわけではなく、王室の別邸に軟禁状態に置かれいるもよう。家族らへの電話も認められているという。

 同誌は複数の消息筋の話として、ムハンマド皇太子は11月21日、22日にリヤドで開催されるG20サミットの前に国王に就任し、サミットを新国王のお披露目の場にしたい思惑だと伝えている。消息筋の1人は「皇太子が国王の死去まで待てない」と述べた。

 その理由は、サルマン国王が亡くなれば、皇太子の立場がどうなるか分からないとの不安があり、皇太子は国王の庇護があるうちになんとしても王座に就きたい、と願っているようだ。高齢の国王は認知症の他は健康だといわれるが、同筋はムハンマド皇太子が国王に「退位さえ迫るだろう」との見通しを明らかにしている。

皇太子に公然と反対も

 ムハンマド皇太子はなぜ、サウジ最有力の閨閥“スデイリ7”の一員であり、長老の叔父アハメド王子を拘束したのだろうか。“スデイリ7”は初代アブドルアジズ国王の妻の1人だったスデイリ家のハッサン妃が生んだ7人の男子を指す。国王2人、皇太子2人を輩出したサウド王家の名門。現在存命中なのはサルマン国王とアハメド王子しかいない。

 しかも、国王とアハメド王子は最後に残った兄弟として親しい間柄だったという。しかし、アハメド王子は甥のムハンマド皇太子の改革路線や強硬外交には反対していたといわれる。同誌によると、国王は今回の粛清が始まる前に王子を呼んで、息子の皇太子を支えるよう頼んだが、王子はこれを拒否した。

 王子は「皇太子の政策を支持しないことを明確にし、自らは国王になることを望んでいないが、誰か他の候補が現れるのを見守ると述べた」(消息筋)という。国王の就任は初代アブドルアジズ国王の直系男子で構成される「忠誠委員会」で最終的に決定される。ムハンマド皇太子が2017年、皇太子に昇格する時は同委員会のメンバー34人のうち31人が賛成した。

 しかし、同誌は消息筋の話として、もしサルマン国王が死去し、同委員会が開かれれば、アハメド王子はムハンマド皇太子の国王就任に公然と反対しただろう、と指摘した。皇太子が国王の説得にも耳を貸さなかったアハメド王子に脅威を感じたのは想像に難くない。この辺が粛清の引き金になったかもしれない。

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