2024年12月22日(日)

中東を読み解く

2020年3月10日

トランプ・ファクター

 それでは、なぜこの時期にムハンマド皇太子は粛清に出たのか。皇太子にとっては、反対勢力の芽をつぶし、権力を完全に握る大勝負だったはずだ。その1つはG20サミットを見据えたものであることは間違いあるまい。もう1つはトランプ・ファクターである。

 皇太子が反対派を抑えてサウジを牛耳ることができたのは、国王のバックアップがあったのは勿論だが、トランプ政権の全面的な支持を得たことが大きい。トランプ大統領の娘婿のクシュナー上級顧問と親しい関係となり、トランプ氏からもイランに対する強硬政策や米国から大量の兵器を購入したことで気に入られた。

 反体制派ジャーナリスト、カショギ氏の殺害事件では、皇太子の関与が濃厚であるにもかかわらず、トランプ大統領が擁護し続けたのは記憶に新しい。だが、民主党の有力候補であるバイデン前副大統領、サンダース上院議員ともカショギ氏殺害事件では皇太子を非難しており、皇太子はトランプ氏の再選に期待をかけてきた。

 しかし、トランプ氏が100%再選できるという保証はない。仮に民主党政権が誕生すれば、これまでのように米国から支持が得られるとは限らない。そうなれば、国王就任も盤石なものではなくなりかねない。皇太子としては、トランプ氏がホワイトハウスに座っている間に反対派を一掃し、可能ならば国王に就任する必要があるわけだ。

 だが、ムハンマド皇太子の描いたシナリオが順調にいくとは限らない。その最大の要因が新型肺炎コロナウイルスの世界的なまん延だ。経済が縮小し、原油価格が大幅に下落、皇太子の改革政策「ビジョン2030」に早くも赤信号が灯っているからだ。サウジは最近の交渉で、ロシアとの原油減産に合意できず、4月から増産に踏み切る方針だが、皇太子の粛清はコロナ拡大に足元を取られるかもしれない。

  
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