イラクで駐留米軍とイラン支援の民兵との緊張がロケット弾攻撃をきっかけに高まり、イラク戦争で米軍と過激派との戦闘が激化した“前夜”のような情勢になってきた。米軍は部隊をより安全な基地や隣国クウエートに再配置することを決めた。一方、民兵を支援するイランの核開発は「3、4カ月で核爆弾製造に必要な高濃縮ウランを獲得可能」(専門家)という深刻な状況になった。
ソレイマニ司令官の誕生日に攻撃
イラク駐留米軍とイラン支援のシーア派民兵組織との対立はイラン革命防衛隊「コッズ」のソレイマニ司令官が1月初め、米国に暗殺されてから続いてきた。バグダッドの米大使館周辺にも複数回にわたってロケット弾が撃ち込まれた。有力民兵組織「カタイブ・ヒズボラ」(神の党旅団)のムハンディス指導者が司令官と一緒に殺害されたことも両者の対立に拍車を掛けた要因だ。
今回、緊張が一気に高まったのは、3月11日にバグダッド北方のタージ基地が約30発のロケット弾攻撃を受け、米兵2人、有志連合軍の英兵1人が殺害され、14人が負傷したことがきっかけだ。米軍は翌日、カタイブ・ヒズボラの武器庫5カ所を報復空爆し、民兵の戦闘員ら26人を殺害した。イラク側の発表によると、イラク兵や市民ら6人も犠牲になった。
11日は故ソレイマニ司令官の63歳の誕生日に当たり、カタイブ・ヒズボラはこの日を選んで攻撃したようだ。米空爆に対し、14日にも同基地にロケット弾30発以上が再び撃ち込まれた。かつてのイラク戦争では、侵攻した米軍に対し、イラン支援のシーア派民兵と国際テロ組織アルカイダ系の過激派がゲリラ攻撃を仕掛け、激戦が続いたが、今の状況はその寸前の情勢と酷似している。
このため、ポンペオ米国務長官がアブドルマハディ首相に電話し「必要に応じ追加の行動を取る」と警告、米兵に対する脅威を武力で排除する考えを伝えた。首相の対応は明らかではないが、イラク側は米空爆に強く反発していると見られている。イラク議会はソレイマニ司令官の殺害後、外国軍のイラク撤退要求決議を可決している。
中東を統括する米中央軍は3月16日、攻撃にさらされそうな小規模の基地に駐留する米部隊を数日内に、イラク領内のより安全な基地や、クウエートやシリアに移動させることを決定した。トランプ大統領が再選に向けて選挙運動を展開している時、戦闘が激化すれば、再選に深刻な影響が出かねない。大統領としては、11月の選挙までは米軍の活動を控えめに保ちたい思惑とみられる。