2024年4月20日(土)

中東を読み解く

2020年3月18日

イラン、「重大な一線」を突破

 イランは米空爆を危険な行動と非難、イラク駐留を再考すべきだとトランプ大統領に要求した。そのイランだが、このところ急速にウラン濃縮を加速し、「重大な一線」を突破、国際原子力機関(IAEA)が「深刻な懸念」を表明するまでになった。

 「重大な一線」とは何か。それは低濃縮ウランの貯蔵量だ。イラン核合意で許される低濃縮ウランの貯蔵限度は300キロ。核爆弾1個を製造するためには、低濃縮ウラン1000キロが必要だが、貯蔵量300キロからだと、核爆弾を製造するのに1年かかる。これは核合意で、イランが核開発を決意しても、核爆弾を製造するのに必要な「ブレイクアウト」時間を1年として設計したからだ。1年あれば外交や武力攻撃で核開発をやめさせることが可能、という判断だ。

 しかし、イランはトランプ政権が核合意から離脱し、経済制裁を発動したことにより、原油の輸出が大幅に削減されたことに反発。合意を維持する英独仏中ロの5カ国に対し、イランの経済的な損失を補てんするよう要求した。同時に合意の上限を超えたウラン濃縮を加速し「制裁緩和がなければ核武装する」と米欧に圧力を掛けた。

 IAEAによると、こうした中、イランの低濃縮ウランの貯蔵量が2月中旬時点で、1020.9キロに達した。核合意の上限をはるかに上回る貯蔵量だ。現在のところ、濃縮度は原発燃料級の4.5%にとどまっているが、ナタンズの地下施設では5060に上る遠心分離機が、また山中に掘られたファルドウの核関連施設でも新型の遠心分離基1044基が稼働しているという。

 イランはまた、過去の核開発の疑惑が持たれている3カ所の施設に対するIAEAの査察を拒否、IAEAは「深刻な懸念」をイラン側に伝えた。IAEAはイランが低濃縮ウランの製造を加速させている現状について、核爆弾製造に向けたものというより、欧米に圧力を掛けるための行動と見ている。

 しかし、核拡散問題を追跡しているワシントンの「科学国際安全保障研究所」の専門家はイランが生産した低濃縮ウランを、核爆弾1個を製造するのに必要な高濃縮ウランに転換するまでに「3カ月から4カ月で済むのではないか」と米紙に語っている。これは、あくまでも推定であり、イランが核開発を決意することが前提になっているが、重大な局面に差し掛かったことは確かだ。

 米紙によると、米情報機関は少なくとも2007年後半には、イランが「プロジェクト110」という極秘核開発計画を開始したことを探知していた。イスラエルの情報機関モサドは2018年、テヘランの秘密倉庫からこの極秘計画に関する文書を盗み出した。その結果、イランが核開発に向けて様々な実験を繰り返していた実態が判明したという。

 今後の最大の焦点は制裁緩和が実現しないことに苛立ったイランが極秘に核開発に向け踏み出すのかどうか、イスラエルと米国がそうした疑惑情報を入手した場合、イラン核施設への軍事攻撃に踏み切るのかどうかだろう。核爆弾製造のための高濃縮ウランを入手するまでに数カ月しかないのが事実とすれば、本格的な“イラン危機”はそこまで迫っていることになる。

  
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