黒人暴行死事件の抗議デモの鎮圧をめぐってトランプ大統領と軍指導部の対立が深まっている。制服組トップのミリー米統合参謀本部議長は6月11日、国防大学卒業式へのビデオメッセージで、デモを排除して大統領の写真撮影に同行した問題について「私はその場にいるべきではなかった」と強く反省、最高司令官である大統領に事実上の“決別宣言”を突き付けた。
国民不信を高めたと謝罪
ミリー議長がこの問題で大統領を批判する見解を明らかにしたのは初めて。上司であるエスパー国防長官はすでに「軍投入は最後の手段」と言明し、「反乱法」を適用して「軍投入も辞さず」とする大統領の強硬方針に反対を表明していた。大統領は軍の最高幹部2人が自分の方針に公然と異を唱えたことに激怒、一部メディアは解任を検討していると伝えている。
同議長が後悔しているのは6月1日の写真撮影問題だ。大統領はこの日、ホワイトハウス周辺のデモ隊に催涙弾を浴びせて排除し、エスパー国防長官や議長らを従えて、徒歩で数分のセントジョンズ教会に行き、聖書を片手に記念撮影するというパーフォーマンスを演じた。支持率の低下に焦る大統領が支持基盤のキリスト教福音派にアピールするのが狙いだったと見られるが、国民や軍人の多くから厳しい批判を受けた。
特にミリー議長が戦闘服姿でトランプ氏に従っていたことは「デモの鎮圧に軍投入も辞さない」という大統領の強硬方針に軍が賛同している、とのイメージを強く与える結果になった。米軍は国内政治には伝統的に中立な立場を保ってきたが、議長の行動はこれに反する印象を与えた。
議長はメッセージの中で「私たちは鋭い状況認識の感覚を保つことが重要だが、私にはできなかった。写真撮影の場にいたことで市民社会における軍の役割について国民的な議論を巻き起こし、私の存在が内政に軍が関与しているのではないか、との見方を生んだ」と指摘、国民の不信を招いたことを謝罪した。
抗議デモのきかっけとなった白人警察官による黒人暴行死事件について、議長は「デモは黒人に対する数世紀にわたる不正義にも抗議している」などと言及、抗議行動に理解を示した。ニューヨーク・タイムズなどによると、議長はトランプ大統領に随行していた時、教会に行くとは知らず、州兵らの警備態勢を視察するためだと思っていたという。
議長は6月初め、ホワイトハウスの大統領執務室でデモ鎮圧に軍を派遣することに積極的なトランプ大統領に反対して激論を交わし、写真撮影の数日後には、この問題で自分が怒っていることを大統領に伝えたという。国防総省当局者らはエスパー国防長官とミリー議長が大統領に反旗を翻したことで解任されると懸念している。だが、大統領選挙が5カ月弱に迫る中、軍とのごたごたは再選にマイナスとの意見もあり、トランプ氏が解任を思いとどまる可能性も強い。