
アメリカのドナルド・トランプ大統領は13日、欧州連合(EU)からアメリカに輸入される酒類に200%の関税をかけると警告した。
アメリカは前日に、鉄鋼とアルミニウムに対する25%の関税措置を発動。この報復措置として、EUはアメリカ産ウイスキーに50%の関税を課す方針を発表していた。
トランプ氏はEUに対し、「厄介な」関税の即時撤廃を要求。EUは「敵対的で乱暴だ」、「アメリカを利用することだけを目的に形成された」と非難した。
欧州委員会の報道官は、現在の状況について話し合うため、アメリカとEUとの間で「電話協議の準備が進められている」と述べた。
欧州委員会のマロシュ・シェフチョビッチ通商担当委員は、トランプ氏が警告を発した後に「アメリカの担当者と連絡を取った」と認めた。
金融市場を揺るがし、アメリカを含む世界経済と消費者への影響を懸念させる貿易戦争が、この対立によっていっそう悪化した。
アメリカは欧州産ワインの最大の輸出先だ。欧州のワイン業界を代表する欧州ワイン企業委員会(CEEV)によると、欧州は毎年450億ユーロ(約7兆2500億円)相当のワインをアメリカに輸出している。
CEEVのイグナシオ・サンチェス・レカルテ事務局長は、トランプ氏が脅しを実行に移せば、市場が破壊され、大量の雇用が失われるだろうと述べた。
「(欧州の)ワインを全て売るための代替手段はない」と、レカルテ氏は述べ、「この争いにワインを巻き込まない」よう両者に求めた。
アメリカが12日に鉄鋼とアルミニウムに対する25%の関税措置を発動させたことを受け、アメリカと欧州は対立している。
アメリカにとって有数の貿易相手のカナダと欧州は、追加関税は不当だとして、さまざまなアメリカ製品に独自の関税をかけて対抗している。EUの対米関税措置は4月1日に発効する予定。
両者は、第1次トランプ政権時代にも、関税をめぐり同様の対立を繰り広げた。EUは当時、報復措置として米国産ウイスキーに25%の関税をかけるなどした。
その結果、EU向けのウイスキーの売上は20%減少。米蒸留酒協会によると、2018年に約5億5200万ドルだった売り上げは、2021年には4億4000万ドルにまで落ち込んだ。
トランプ氏の退任後、欧州とアメリカは、一定量の欧州産金属を関税対象から外すことで合意し、アメリカ産ウイスキーに対する関税は解除された。
しかし、トランプ氏は今回、少なくとも鉄鋼とアルミニウムに関しては、取引への意欲をほとんど示していない。
「この(EUの)関税が直ちに撤廃されない場合、アメリカは間もなく、フランスやほかのEU諸国からのすべてのワイン、シャンパン、アルコール製品に200%の関税をかける」と、トランプ氏はソーシャルメディアに投稿した。
「生活への巨大な脅威」
フランス産ボルドーワインや米テネシー州のウイスキーほど、象徴的な消費財はほかにあまりない。それが今や関税の標的になっている。価値という観点からみれば、関税措置に直面しているほかの製品に比べて飲料製品の価値は低い。
しかし、アメリカを拠点とする欧州産ワインの輸入業者、メアリー・テイラー氏は、関税は自分のビジネスと業界にとって壊滅的な措置で、全米のレストランやバー、販売業者にまで影響が波及するだうと語った。
「私たちの生活に対する、巨大な脅威にしか思えない」
年間200万本を輸入するというテイラー氏は、第1次トランプ政権が一部のEU産ワインに25%の関税をかけた際、欧州での流通を拡大して乗り切ったものの、「関税200%はまったく次元の違う話だ」と強い懸念を示した。
米株式市場では13日、株価が再び下落した。
ニューヨーク株式市場では、S&P500種株価指数が一時、約10%下落し調整相場に入った後、約1.4%安で取引を終えた。ダウ工業株平均は1.3%、ナスダック指数は2%近く、それぞれ値下がりした。
英ロンドン株式市場ではFTSE100種総合株価指数は横ばいで推移し、ドイツの株価指数DAXは約0.5%下落した。
フランスのCAC40指数は0.6%安だった。一方、主要な蒸留酒メーカーの株価は打撃を受け、ペルノ・リカールは4%、LVMH傘下のコニャックメーカー・ヘネシーは1.1%とそれぞれ下落した。
ホワイトハウスの高官は13日、米ブルームバーグのインタビューで、EUが争いをエスカレートさせていると非難した。
「なぜ欧州はケンタッキー州のバーボンや、ハーレーダビッドソンの二輪車をいじめるのか。無礼だ」、このやり合いは「本題から外れている」と、ハワード・ルトニック米商務長官は述べた。
スコット・ベッセント財務長官は、貿易戦争はアメリカよりもEUに経済的な痛みを与える可能性が高いと警告。衝突が連鎖していくのではないかとの懸念を一蹴した。
「一つの貿易圏に対して、一つか二つの品目だ。それがなぜ市場にとって大問題になるのかが分からない」
欧州中央銀行のクリスティーヌ・ラガルド総裁は、BBC番組「ハードトーク」のインタビューで、EUには報復措置を取るしか「選択肢はない」と語った。
「現時点では、誰もがポジション取りをしようとしている」とラガルド氏は述べ、双方が腰を据えて交渉することを期待していると付け加えた。
そして、この争いが本格的な貿易戦争に発展すれば、「誰もが苦しむことになる」と述べた。
これまでのところ、トランプ氏は自分が導入した関税をめぐる、各国からの報復措置に対してほぼ一貫して厳しく反応している。
11日には、カナダから輸入する鉄鋼とアルミニウムへの関税を50%に引き上げると発表した。
これは、トランプ氏がカナダへの関税を大幅に引き上げると警告したことへの対抗措置として、カナダ・オンタリオ州が、米北部の複数の州に供給する電力に25%の追加料金を課す計画を発表したことへの警告だった。
その後、オンタリオ州は追加料金を課す計画を停止し、トランプ氏は関税を当初の25%に戻した。
トランプ氏の元顧問で、現在はヘリテージ財団のエコノミスト、スティーブン・ムーア氏は、事態打開のためにはEUが譲歩する必要があると考えている。ムーア氏は、トランプ氏は一貫して、農作物の規制について懸念を表明してきたと指摘した。
「間違いなく、取引に至って、事態は収束するだろう」とムーア氏は述べた。「あと1日で取引が結ばれるのか、それとも1週間後、1カ月後あるいは6カ月後になるのかは分からないが、最終的には交渉で解決するだろう」。