
国連人権理事会の調査委員会は13日、パレスチナ・ガザ地区でイスラエルがパレスチナ人に対する性的暴力やジェンダーに基づく暴力をますます強め、妊産婦・生殖医療施設を体系的に破壊して「ジェノサイド(集団虐殺)行為」を行っていると非難した。
イスラム組織ハマスによる2023年10月7日のイスラエル奇襲をきっかけにガザでの戦争が始まって以降、ガザと、イスラエル占領下のパレスチナ・ヨルダン川西岸地区では、レイプを含む暴力行為が起きているとされる。今回公表された国連人権理事会の委託調査の報告書には、こうした疑惑が記録されている。
報告書はまた、ガザの産科病棟や、不妊治療クリニックで保管されている胚が破壊されていることについて、ジェノサイドの法的定義の一つである「特定の集団の出産の阻止」を狙った戦略の実施を示す可能性があると指摘している。
イスラエルは、「根拠のない主張を断固として拒否する」としている。
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、国連人権理事会を「反ユダヤ主義的で、腐敗した、テロリストを支援する、不適切な機関」と呼び、怒りをあらわにした。
そして、ハマスの戦争犯罪に焦点を当てるのではなく、「虚偽の主張」を使ってイスラエルを攻撃していると述べた。
(注意:この記事には痛ましい内容が含まれます)
パレスチナの占領地に関する独立国際調査委員会は、2021年に国連人権理事会によって設立された。国際人道法および人権法に違反しているとされるあらゆる疑惑を調査している。
3人の委員で構成される同委員会は、最新の報告書について、性的・生殖的暴力の被害者や目撃者の証言、検証済みの画像や動画、そして市民社会および女性の権利団体からの情報に基づいて作成したと説明した。今週初めにスイス・ジュネーヴで2日間にわたり開かれた公聴会での証言も含まれる。
同委員会のナヴィ・ピレイ委員長(南アフリカ出身の元国連人権高等弁務官)は、収集された証拠から「性的暴力やジェンダーに基づく暴力が、嘆かわしいほど増加している実態が明らかになった」と指摘。イスラエルがこうした行為をパレスチナ人に対して行い、「彼らを恐怖に陥れ、自己決定を損なう抑圧的な体制を永続」させようとしていると主張した。
報告書によると、公の場で強制的に裸にさせることや、レイプの脅迫を含む性的嫌がらせや、性的暴行など、特定の形での性的暴力やジェンダーに基づく暴力が、「パレスチナ人に対するイスラエエル治安部隊の標準的な活動手順の一部になっている」という。
レイプや性器への暴力を含む、ほかの形態の暴力については、「イスラエルの文民および軍の指導層による明示的な命令の下、あるいは暗黙の奨励の下で行われている」と、報告書は主張している。
報告書は、指揮官や高官からの明示的な命令の事例は示していない。しかし報告書には、イスラエルのスデ・テイマン軍事基地で昨年、拘束中のパレスチナ人を激しく虐待したとされる複数兵士を擁護した、イスラエル閣僚たちの発言が引用されている。
オーストラリアの人権派弁護士で委員会メンバーのクリス・シドティ氏は、「性的暴力は今や、体系的としか言いようがないほど、広範囲に広がっている。これは、無法な個人による偶然の行為と呼べるレベルを超えている」と、BBCに語った。
一方イスラエルは、ガザで拘束された人々に対し、広範な虐待や拷問が行われているとの非難を一蹴。国際的な法的基準を完全に順守していると主張している。
調査委は、1年2カ月にわたるガザでの戦争で、イスラエル軍がガザ全域で生殖医療施設などを体系的に破壊していたことも突き止めたとしている。
イスラエル当局が生殖医療へのアクセスを禁止する措置を取ったため、女性や少女が妊娠や出産に関連する合併症で死亡していると、報告書は結論付け、これは人道に対する罪のひとつ、「根絶」に相当すると指摘している。
イスラエル当局が、産院や病院の産科病棟、ガザ市の主要な体外受精クリニックのアル・バズマ体外受精クリニックなど、生殖関連施設の「体系的な破壊」を行うことで、「ガザのパレスチナ人の、民族としての生殖能力の一部を破壊した」とも、調査委は主張している。
イスラエルの行為は、「パレスチナ人の身体的破壊をもたらすように計算された生活条件を意図的に課し、出産を妨げるための措置を課すなど、国際刑事裁判所(ICC)の設置法である「ローマ規程と、ジェノサイド条約におけるジェノサイド行為の2つのカテゴリー」に相当すると、調査委は結論付けている。
報告書によると、アル・バズマ体外受精クリニックの発生学研究所は2023年12月初旬に攻撃を受け、約4000個の胚、1000個の精子サンプルと未受精卵が損なわれたという。
画像の視覚分析によると、攻撃は大口径の砲弾、おそらくイスラエル軍戦車の砲撃によるもので、イスラエル軍が意図的に攻撃したと、調査委は断定している。しかし、イスラエル軍は当時、クリニックへの攻撃については認識していないとABCニュースに語っていた。BBCはイスラエル軍にコメントを求めている。
「医療施設の意図的な破壊は、国際人道法と人権法にとって深刻な問題の一つだ。当該クリニックへの攻撃を私たちが分析したところ、生殖医療の破壊を意図的に狙った様子が分かった」と、前出のシドティ氏は述べた。「その結果、出生が妨げられることになる」。
イスラエルは報告書を一蹴
イスラエルの国連代表部は声明で、調査委の報告書は「(イスラエル軍を)罪に問い、「体系的な」(性的暴力とジェンダーに基づく暴力の)行使という幻想をつくり出ろうとする、恥知らずな試み」だと主張した。
また、調査委が「裏付けのない、また聞きの、単一の情報源からの情報」を用いることを決めたと非難。これは確立された国連の基準や方法論と矛盾するものだとした。
さらに、イスラエル軍には「そのような不正行為を明確に禁止する具体的な指示、手続き、命令、および方針」があるとし、性的暴力の疑いのある事案を調査する仕組みもあると強調した。
イスラエルのネタニヤフ首相も、調査結果を一蹴し、国連人権理事会を「反イスラエル集団」と呼んだ。
「ホロコースト(第2次世界大戦中のナチス・ドイツによるユダヤ人などの大虐殺)以来のユダヤ人に対する最悪の大虐殺において、国連はまたしても、テロ組織ハマスが犯した人道に対する罪と戦争犯罪に焦点を当てるのではなく、性的暴力という根拠のない非難を含む虚偽の主張を用いてイスラエル国家を攻撃することを選んだ」と、ネタニヤフ氏は述べた。
イスラエルをめぐっては、南アフリカが、イスラエル軍がガザのパレスチナ人に対してジェノサイドを行っているとして、ICCに対応を要請。現在、審理が続いている。イスラエルはこの主張を激しく否定している。
ハマスは2023年10月7日、イスラエル南部に異例の奇襲攻撃を実施。イスラエル人を中心に約1200人が殺害され、251人が人質に取られた。イスラエルはこれに対して、ハマス壊滅作戦を開始。ハマスが運営するガザの保健省によると、4万8520人以上が殺された。
ガザの住民約210人のほとんどは地区内避難を繰り返すことになり、ガザ地区の建物の約70%が破壊または損傷していると推定されている。
医療、飲料水、衛生システムは崩壊し、食料、燃料、医薬品、避難所が不足している。
(英語記事 UN experts accuse Israel of sexual violence and 'genocidal acts' in Gaza)