
イギリスのキア・スターマー首相は13日、イングランド国内の医療サービスを所管する「国民保健サービス(NHS)イングランド」を廃止し、政府内の「民主的な管理」の下に置くと発表した。官僚主義と無駄を減らすのが目的だとした。
スターマー氏によると、NHSイングランドは保健省に組み込まれる。これにより、最前線でのサービス提供のための資金が確保されるという。
昨年12月時点で1万4400人いたNHSイングランドの職員と、3500人の保健省職員は、半数近くが仕事を失うことになるという。
スターマー氏は、政治家らがあまりに長い間、「準独立非政府組織(QUANGO)の陰に隠れてきた」と述べた。準独立非政府組織は税金で運営されているが、政府による直接の管理は受けない。
政府は直ちに、NHSイングランドの機能の多くを保健省に戻す作業を開始する。2年以内の完了を目指すという。
これにより、現労働党政権が主要公約の一つにしているNHSの診察待ち短縮について、政府が管理し、責任をもちやすくなるという。
政府が「世界最大の準独立非政府組織」と呼ぶNHSイングランドは、医療サービスを所管し、資金と優先事項について政府と協力して合意する。また、地域のNHSのサービスを監視している。
2012年に、当時の保守党政権のアンドリュー・ランズリー保健相が、政治家の干渉が及ばないようにするとして、NHSイングランドに自治権を与えた。
野党は支持しながらも政府批判
今回の変革についてウェス・ストリーティング保健相は、医療従事者らを過剰かつ「矛盾する指示」から「解放」するものだと、BBCラジオ4の番組で説明。結果的に、「納税者にとっての価値となり、患者にとってもよりよい結果となる。何億ポンドも節約でき、それを最前線でのすぐれたサービス提供に回せるからだ」と述べた。
最大野党・保守党のケミ・ベイドノック党首は、医療サービスの運営を政府管理下に戻す今回の動きを歓迎した。一方で、与党・労働党に対し、「もしうまくいかなかったら隠れることは許されない」と警告した。
ベイドノック氏はまた、「大きな期待」はしていないと発言。すでにウェールズではNHSを労働党が運営しており、「イギリスの他の地域よりもずっと悪い状況にある」からだとした。
野党・自由民主党のエド・デイヴィー党首も、政府の計画を支持しながらも、NHSの主な問題は別にあると主張。問題解決には、「より多くの開業医、NHS歯科医、地域薬剤師を確保し、公的ケアを実際に機能させる」ことに、政府が注力しなくてはならないとした。
公務員を大幅に減らす方針も
スターマー氏はNHSイングランド改革を、国家改革に関する演説の中で発表した。首相はイギリスの公的サービスの現状について、「対象範囲を拡大しすぎ」で「焦点が定まっていない」と評している。
スターマー氏は、「政治家らは長年にわたり、膨大な数の準独立非政府組織、政府外の公共機関、規制当局、審査機関の陰に隠れてきた」と指摘。「納税者にとっての優先事項を政府が実行するのを、税金を使って阻止するという、チェックとブロックの家内産業のようなものになっている」と述べた。
イギリスの準独立非政府組織は、2010年以来、半分以下に減っている。それでも、全国にまだ300以上ある。
それらには規制当局、文化機関、諮問機関なども含まれる。NHSイングランドのような大規模組織もあれば、賭博委員会や英国映画協会などの小規模なものもある。
現在の労働党政権は発足以来、新しい準独立非政府組織を20以上設立している。政府のクリーン電力目標を達成するために再生可能エネルギーに投資する「グレート・ブリティッシュ・エナジー」や、就職支援を目的とする「スキルズ・イングランド」などだ。
政府はまた、50万人以上いる公務員の人数を減らしたい方針。
スターマー氏は演説で、政府再編の必要性を、家計の負担増を招いている世界的な情勢不安と関連づけた。そして、国は「最大出力」で運営されなくてはならないと述べた。
2005年から2011年にかけて公務員トップの内閣官房長を務めたガス・オドネル氏は、公務員への政府のメッセージは「悲惨としか言いようがない」とBBCラジオ4の番組で話した。
オドネル氏は、スターマー氏について「ミニ・イーロン・マスクになろうとしているのか?」と批評。最近の公務員批判発言を「まったくばかげている」とし、スターマー氏と同氏の目標にとって「実に有害だ」と述べた。
公務員の労働組合「プロスペクト」のマイク・クランシー代表は、改革が必要なことには同意するとした一方で、「官僚主義を減らすことと、国家の本質的な機能を損なうことは違うことを、政治は認識しなければならない」と述べた。
(英語記事 NHS England to be axed as role returns to government control)