中東を読み解く

2020年5月22日

»著者プロフィール
コロナ禍で学校が閉鎖されたため、13歳の少女が自宅で近所の子どもたちにアラビア語を教えている。ガザ地区(REUTERS/AFLO)

 大連立政権を樹立したイスラエルのネタニヤフ首相はこのほど、占領地ヨルダン川西岸に建設されたユダヤ人入植地の併合に向け、改めて決意を表明した。これに反発したパレスチナ自治政府のアッバス議長は5月19日、自治区の枠組みなどを定めたオスロ合意からの離脱を宣言、最後のカードを切った。和平の行方は暴力の連鎖の懸念をはらみながら絶望感が深まっている。

7月1日にも併合か

 それにしても、イスラエル建国期の首相、ベングリオンの記録を抜いて史上最長、通算5期目の首相の座にあるネタニヤフ氏のしぶとさは筋金入りだ。5月24日に始まる自身の汚職裁判もあり、一時は政治生命の終えんが確実視されながら、強力なリーダーシップを求められるコロナ禍を利用して復活。先週、政敵のガンツ元参謀総長との連立政権を発足させることにこぎ付けた。

 連立合意では、両者は政権期間を3年とし、首相と副首相を半分ずつ交代で務めることになる。最初に首相を務めるネタニヤフ氏の在任期限は21年11月までだが、合意通り、ガンツ氏に首相の座を引き渡すかは懐疑的だ。副首相兼国防相にとどまったガンツ氏が結局は裏切られるだろうと見る向きは多い。

 ネタニヤフ氏は今週初め、選挙運動期間中から公約してきたパレスチナ自治区、ヨルダン川西岸にあるユダヤ人入植地を併合する考えを表明。「イスラエルの主権を適用する時が来た。シオニズム史に新たな栄光の一章を記す」などと併合への強い意欲を示した。

 併合については、トランプ米政権が1月に示した中東和平案の中でも認定。ユダヤ人入植地の面積相当の30%をイスラエル領に編入し、これを除くヨルダン川西岸の70%を将来のパレスチナ国家とするとした。ガンツ氏はこれまで、一方的な併合については反対してきたが、連立合意でネタニヤフ首相に押し切られ、「米政府が承認すること」を条件に、国会の承認ないしは閣議決定を経て「7月1日以降」いつでも併合が可能とすることに同意した。

 しかし、収まらないのはパレスチナ側だ。早ければ7月1日にも将来の領土が削られ、併合が実現することを突き付けられたからだ。アッバス議長はオスロ合意や、合意に伴うイスラエルとの協力関係を終わりにすると宣言、国際社会に対し「イスラエルを単に非難することだけではなく、制裁を加えるよう」訴えた。

 両者はオスロ合意以降、実質的なイスラエル支配の下、治安、行政、経済などで協力関係を続けてきた。とりわけ、治安面では自治政府がパレスチナ人の過激派を抑制し、イスラエルに治安情報を提供することでテロや暴力の暴発を抑えるという仕組みを作ってきた。

 イスラエル軍や情報機関はパレスチナ側から過激派の内部情報が入らなくなれば、治安維持に重大な支障が出ると懸念、協力関係の必要性を重視してきた。このためアッバス議長はこうした協力関係を「断つ」とのポーズを見せることで、イスラエルの譲歩を引き出す“切り札”として利用してきた。だが、今回は単なるポーズではなく、本当に協力関係を断つつもりだとの見方が多い。

関連記事

新着記事

»もっと見る