中東を読み解く

2020年5月22日

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バイデン氏に期待託すパレスチナ

 しかし、実際に関係を断てば、逆に困るのはパレスチナ側だ。行政やインフラ、交易などパレスチナ人の生活のほとんどをイスラエルに依存しているからだ。例えば、徴税だ。イスラエルが自治政府を肩代わりしてパレスチナ住民から税金を徴収しており、このことだけでも窮地に追い込まれるのは自治政府の方だ。自分で自分の首を絞めた感がある。

 「イスラエルへの依存から脱却する方途について、アッバス議長は何も示していないし、できるわけもない。むしろ今回浮き彫りになったのは15年も続くアッバス体制の戦略的な失敗だ」(ベイルート筋)。確かにアッバス議長はイスラエルとの対話路線を続けてきたが、その間、ユダヤ人入植地の拡大などイスラエルに押し込まれ、パレスチナ国家の樹立は遠のいたのが現実だ。協力関係の断絶ももはやカードとして機能しない可能性が強い。

 アッバス議長にとって誤算だったのはパレスチナ紛争が国際的な関心の的ではなくなってきていることだろう。4度の中東戦争を引き起こす原因となったパレスチナ問題は「とっくにアラブの大義ではなくなった。西岸がイスラエルに併合されても言葉による非難だけで、具体的な行動は起こらないだろう」(同)。国連のムラデノフ中東和平特別調整官がイスラエルに対し、「併合の脅し」をやめるよう要求したぐらいで、国際的な批判も沸き起こっていない。

 このためパレスチナ自治政府はネタニヤフ政権を後押しするトランプ氏が米大統領である限り和平の展望は望めないとして、11月の大統領選挙で民主党のバイデン氏が勝つことが唯一の望みだと期待を掛けているようだ。当のバイデン氏はイスラエルとパレスチナの「2国家共存」を目指して中東和平に関与していく意向を表明している。

 しかし、エルサレムに米大使館を移転したトランプ大統領の決断について、和平プロセスを進展させる以外の目的で移転させるべきではなかったと批判したものの、大統領選挙でのユダヤ系票や大票田のキリスト教福音派を意識してか、「もう終わったことだ」と述べ、大統領に当選しても大使館を元のテルアビブには戻さないことを明らかにしており、バイデン氏が自治政府の思惑通りに動くとは言い切れない。

 ベイルート筋は「パレスチナ人は今後3つに分かれていくのではないか」と指摘する。1つ目は領土が縮小してもあくまでも2国家共存を目指すグループ。

 2つ目は2国家共存に見切りを付け、イスラエルによる併合を進め、大イスラエルという1国家に帰属しようというグループ、最後はガザ地区のイスラム原理主義勢力ハマスのように武装闘争に活路を見出そうというグループだ。

 しかし、どのグループのゴールも遠く、実現には高いハードルが立ちはだかっている。パレスチナ問題にはこのほか、中東各地に散らばった500万人に上る難民の帰還という難題も残る。イスラエル建国から72年。中東和平は解決できない歴史の隘路として今後もとどまりそうだ。

  
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