差別歴史のモニュメント否定運動
トランプ大統領は13日、ニューヨーク州ウエストポイントの陸軍士官学校の卒業式を訪れて演説する予定だが、エスパー国防長官、ミリー議長とも同行しない。双方の「前代未聞の不和」(ワシントン・ポスト)が反映していると見られるが、新たな対立も持ち上がっている。米軍基地名の変更問題だ。
今回の黒人暴行死事件による抗議デモの高まりの結果、南北戦争で奴隷制度を支持した「南部連合」の将軍らにちなみ名付けられた米軍基地名を変更すべきだ、との意見が国防総省内で出ている問題だ。エスパー国防長官らが前向きだと言われる。対象はノースカロライナ州のフォートブラッグ基地などだが、トランプ大統領は南部の白人有権者を意識してか、「検討しようとすら思わない」と一蹴している。
米軍の基地名の変更まで論議を巻き起こしている抗議デモはしかし、別の様相も見せ始めている。それは「南部連合」の軍の指導者らの銅像を引き倒し、破壊するといった歴史モニュメントの否定運動だ。これらの銅像などが「黒人差別のシンボル」と見られているからだ。すでに南部アラバマ州では、「南部連合」の最も著名なロバート・リー将軍の銅像が倒された。
こうした「南部連合」にまつわる銅像などは米全土にまだ700体も残っているとされ、否定運動が今後も続く可能性が高い。トランプ大統領が破壊行動に強硬姿勢で臨めば、抗議デモをめぐる混乱はさらに続くことになるだろう。大統領は警官に突き飛ばされ入院中の75歳のデモ参加者を「アンティファ(反ファシスト)」工作員と陰謀論まがいの主張を展開しており、デモへの攻撃を一段と先鋭化させている。
こうしたデモに対する大統領の姿勢は騒乱に厳しい白人支持者に訴え、再選を有利にしようとする試みと受け止められている。その背景には支持率が低下し、民主党のバイデン前副大統領に大きく後れをとっていることへの焦りがある。CNNは今月初め、トランプ氏の支持率が38%に落ち、バイデン氏との差が14ポイントに開いたとの世論調査を公表したが、大統領陣営はこれに反発し、「調査は意図的だ」として、CNNに調査の撤回と謝罪を要求した。
だが、ギャラップの最新調査でも、トランプ氏の支持率は39%、不支持率は57%、とCNNと同様の結果が出ており、大統領は根本的な選挙戦略の見直しを迫られている。大統領陣営は新型コロナウイルスの感染拡大で自粛していた選挙集会を19日から再開することを決定、巻き返しに乗り出す構え。最初の遊説先はオクラホマ州で、テキサスやフロリダと順次強化する方針だ。
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